平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

『ないた』を読んで ざわざわした  2009/09/03

naita


『ないた』(金の星社)は、中川ひろたかさんと長新太さんのコンビである。
帯には「第10回日本絵本大賞」(主催:社団法人全国学校図書館協会/毎日新聞社)とある。

前半は、いわゆる絵本によくある「〜してないた」のくり返しではなしがすすんでいく。
だが、もうじき中盤にさしかかろうとしている「おわかれのときに ないた」の辺りから、少しずつも物語に変化がおきはじめる。
つぎのページでほっとして、だがよろこびも束の間、さらにつぎのページでは、飼っていた犬がこの世をあとにする。
カラスの不気味な鳴き声とお母さんの理解できないなみだ(いや、語り手の男の子にはその理由が直感でわかっている)。男の子の顔、いっしょにねているお母さんの顔、そこには目も口も鼻もなく、ただ壁のように白くぬられているだけである。
そうして、ページをめくると飛び込んでくるのがオレンジ色。
それは夕焼けのオレンジ色。ほっとしたときのオレンジ色。だが、大人のヒミツがかくされているオレンジ色。このページはオレンジ色でなくてはならない。
小さな物語、だれにでもある日常、そこを「容赦なく」中川ひろたか、長新太コンビが筆にした。シュールである。


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