お薦めの本なんですか? 2010/07/12
そう問われると、谷崎潤一郞の『陰翳礼讃』をご紹介するようにしている。わずか煙草一箱分で、この贅沢な時間を得られるかと思うと出版文化の偉大さに思わず手を合わせてしまう。
たしかに、谷崎の陰に関する感覚は鋭い。しかし、陰と云えば、もうひとり忘れてはならいのが、『檸檬』で有名な梶井基次郎である。
梶井は、陰を陰と云うだけでは飽き足らない。実にさまざまな表現で陰を文字化し、視覚化する。
わたしは以前から「撮影」という言葉に注目している。よく、写真は、光りだ!という。その通りだとおもう。光りを操れるかどうかで写真の出来不出来が決まる。ピントなんかどうでもよい。ただし、ここで云う光りとは、実は陰のことだと意識したい。なぜなら、撮影は「撮光」とは云わず、「撮影」と云うではないか。重要なのは陰なのである。陰をどう切り取るか、捉えるかが撮影であり、写真だ。そうして、陰こそが日本文化であり、幽玄なのである。そう思いながら『陰翳礼讃』を読むことをおすすめする。
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