『ポール・ランド、デザインの授業』を書物をもって履修して。
Design is also a system of proportions , which means the relationship of sizes.
『ポール・ランド、デザインの授業』(BNN社)の冒頭に掲げられた言葉である。「デザインとはプロポーションのしくみでもある。つまり、サイズ同士の関係を意味する」
Design is relationships. Design is a relationship between form and content.
「デザインとは関係である。形と中身の関係だ」
箴言である。デザインという世界で一度でも迷子になったことある人間にとっては、魔法の杖である。
Paul Rand、 氏の名前を知らない人でも、あのIBMのマークをつくった男と云えば、あ〜とうなずくだろう。
薄い本である(本書を購入し、バス停で10分程度バスを待ち、バスに20分弱揺られて、降りて5分歩いて、自宅に着いてお茶を淹れる前までには読み終えていた)。だがけっして薄っぺらな本ではない。むしろそのテクストには重厚感があり、老梅たる著者の経験のすべてがある。本書は、1995年に行われたアリゾナ州立大学でのワークショップの記録がベースになっている。第一部が、教授陣との(学生へ向けた)講演打合せの内容,第二部は講演での学生との対話からなる。
ポール・ランドは教授陣に対して、弁証法的にデザインの定義とは何かを問う。問うて問うて問い続ける。そうしてポールは総括する。
「すべてのデザインは関係だ。すべて芸術が。そこから始めるべきなんだ。それが出発点だ。デザインは関係である。形と中身との関係だ。その意味は?君はこうして教えるべきだ。そして学生たちが飽き飽きしてがまんの限界に達するまで、それを教えなければだめだ」
「美学を意識すると、その絵を再生するんだよ。絵というものは、君に、あるいはそれを眺める誰かに、絶えず再生されている。同じことがデザインでも行われるんだ。何の違いもない」
「中身は基本的にアイデアだ。それが中身のなんたるかだからね。アイデアが最優先だ。形はそのアイデアをどう処理するか、どう扱うかだ。これがまさしく、デザインの意味だ。形と中身の衝突であり、形が問題なんだ」
「前期ルネッサンスに遡ると、(画家で建築家のジョルジョ・)ヴァザーリはデザインとは基盤であり、すべての芸術、絵画、舞踏、彫刻、書物の基本だと語っている。デザインとはすべて芸術の基盤なんだよ。デザインはすべて芸術において形と中身を操作することだ。つまり、デザインやグラフィックデザインは、絵画のデザインと違いはない」
ポール・ランドは、デザイナーの卵たちにとにかく本を読むように勧める。学生や教師たちにも具多的な書名を挙げながら、問題を提起し、問題解決の糸口を与える。ポールがいかに先人たちの教えを大事にしているかは、本書の巻末に挙げられた読むべきブックリストの数をみれば明らかだ(ほとんどが洋書であるが)。
そうして彼はデザインの世界にコンピュータを導入することにけっして反対ではないといいながら、学生に向かって以下のように述べている。
「コンピューターは信じられないほど目覚ましい機会をくれると思っているよ。だが、その性質自体------誘惑的な性質は、短所にもなる。初心者にとってなおさらだ。デザインの基本を学ばねばならいからね。デューイを読み、さらにコンピューターも扱うとなると、かなりきつくなるからね。どちらが重要なのか決めなければならない。コンピューターの方が重要で、なおかつオペレーターとしての才能があれば、広告代理店で生涯コンピューターの前で座って過ごすことになるだろう。その方が毎日の仕事としては君に向いているからだ。君は上司にとってより価値の高い存在となるから、自分でデザインを手がけることはなくなるだろう」
事実、現在ではこういったデザイナーが量産されていることは間違いない。
愛弟子の一人ジェシカ・ヘルファンドはこういう。
It was this,more than anything,I learned from him:how to really look--- deeply,ruthlessly,penetratingly---and see.
「先生に教わったことはこれにつきます。どうすれば本当に見ることができるのか。深く、容赦なく、見透かすように 見る」
※文中に登場するデューイとは、『経験として芸術 ART AS EXPERIENCE』の著者ジョン・デューイのことである。
デザインの本を敢えてあまり読まないわたしに、本書を勧めてくださった利根川デザイナーに感謝。
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