平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

テーブルにあがった魚やチキンの骨を観察しよう   2008/12/26

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一回りしてから、あとで買おう〜っと そう思ってうっかりそのまま本屋を出てしまい、ずっと気になっていた本が昨日手に入った。

過日、友人の編集者たちや写真家と一緒にカレー屋さんで話し込んでいるときに、「その本」のことが話題となった。

「その本、わたしが編集しました」
「えっ? わたしがって、Mさんがですか?」 
ビックリしたな〜 そんなこともあるものなんですね〜

その書物とは『BONES 〜動物の骨格と機能美』(早川書房) 脊椎動物の骨格をみごとに写しとったモノクロの写真集だ。それはアカシュモクザメから始まり、155枚の機能美を見せながら、フタユビナマケモノまでを一冊の「骨格博物館」という書物の中に展示する。見方は自由。パッと開いて、そこから来館するもよし、ゆっくりと息を殺しながら見て回るもよし、ページを操りながら館内を行きつ戻りつしてもいい。また進化を意識しながら「コッカク・クロニクル」を高速で駆け抜けるという方法もあるだろう。

本書を担当したカメラマンの湯沢英治氏は、ある日動物園で頭骨の写真を撮ったことがきっかけで、この世界の虜となる。そうして太陽光のみで、すべてを撮り抜いた。漆黒の背景に浮かび上がる骨の白さは太陽光が照らし出した白だったのだ。
そうして解説を担当した東野晃典氏は興に入って本来は骨格に含まれない歯の機能につても言及している。まことに読み応えのある解説文だ。また本書の解説にはわたしがずっと注目している「遺体科学」の権威・東京大学総合研究博物館教授の遠藤秀紀氏も助っ人として参加している。

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で、この本に書いてあること、ないことを含めて骨の雑学を少々。

@成人の頭蓋骨は28個の骨でなっている(全身の骨の数は206個)。といっても、下顎以外、すべて縫合されている。大学時代、この縫合線を目の前で見たことがあるが、それは蛇行するアマゾン川のようであった。ちなみに誕生時の頭蓋骨は45個に別れているが、それが癒合して上記の数となる。

@鳥類の足指は基本的に4本。しかしダチョウは高速で地上を走るために2本。

@カバや馬や猪は、反芻しない大型草食獣。それは下顎の大きさを見ると、異常に大きく発達していることから判断できる。故に同じ草食獣でも牛の下顎は比較的小さい。

@イヌイットにはイヌガックという骨遊びがある。アザラシの後脚の骨約20個を使う遊び。それぞれ男、ソリ、犬などの役がつていて、それを袋の中から見ないで取りだしていって、並べて物語をつくる。これって今でも同じルールでゲームが作れそうだ(あ、いいこと考えた〜)。

@イルカの肋骨はまるで十字架のように美しい。

@魚の年齢は耳骨でわかる。

@鶏の翼には指の骨がある(ここで驚かないように)。その数は3本で、これは恐竜がご先祖様であることの証明でもある。

@今では常識となったが、人間もキリンも頸椎は同じ7つ。哺乳類ではナマケモノが9つある(木に登りながら、身体はそのままで首だけがぐるりと回るはそのため)。

@思春期のキリンの雄は首と首をぶつけ合うネッキングをするが、そのためか頸椎の中はすかすかしている。この方が空気を含んでいて丈夫なのだ。中が詰まっているとかえって弱くなる。ちなみに長い首を上げ下げしても血圧が一定に保たれるようにワンダーネットという網目状の毛細血管が後頭部にはりめぐらされている。

さて、みなさん、きょう食卓にあがる魚やチキンの骨をよ〜く観察してみましょう。
Mさん、素敵な本をありがとうございました。大切にします。

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