平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

静岡大学学長表彰 そして大学で学ぶこと

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 担当する情報意匠論の授業が、4年間で2度目の静岡大学学長表彰を頂いた。今回の受賞は以下、広告賞に対する評価であるhttp://www.hirano-masahiko.com/tanbou/601.html。静岡大学の学生数千人もいるなかで、二組のうち一組に選ばれた学生たちを素直にほめて上げたい。
 思い起こせば5年前、人文学部言語文化学科の小二田先生から「大学で授業をやってみないか」と声を掛けて頂き、ここへ来てそれなりの結果が出せたのではないだろうか(もちろん理想にはまだ遠い)。この授業は色々な人たちによって支えられている。表彰式に出てみると、なるほどそれを改めて実感する。まず最初にスポンサーの何も口出ししない勇気。学生にすべてを任せるという態度が良かった。
 そうしてやっぱり学生が優秀だからこそ、今回の学長表彰も受賞できたとおもっている。謙遜ではない。そういうふうに物語を語りたいからではない。わたしがやったことといえば、学生が考えた広告表現を、公に発表するチャンスをつくっただけだ。

 例えばある村で新幹線のぞみのように速く走る若者がいたとする。彼はオリンピックのことなどつゆ知らず、ただ獲物を捕獲するという目的のためだけにその俊足を活かしていた。だが、村の長老がたまたま伝聞した別世界では、その俊足が「競技」となって評価されるという。彼は長老の薦めによって競技に出場、いつものようにトラックを、獲物を追いかけるようにして走り、何がなんだかよくわからないうちにゴールドメダルを手にしていた(トラックに獲物を放してくれれば、もっと早く走れたのにな〜、と彼は悔やむだろう)。
 この例で言えば、「ねえねえ、オリンピックっていう競技あるんだけど出てみない」、そう云った長老が平野である。長老の仕事は、経験をベースにしながら「この時期にこちらの方角に向かってこうしなさい。そうすれば、必ず吉報はもたらされるであろう」。そういうことを知っていて、村の繁栄を祈り、みんなで共有する場をつくりあげることだ。そのあと長老は「ジャンプしすぎて、ふくらはぎが痛いよ〜」とか「早口言葉なんて今更言えるわけがない。だって年なんだから」なんて悪態をつきながらフテ寝して、顔にまとわりつくハエを追い払っているのが唯一の仕事なのである。


 ところで、大学で学ぶということはどういうことだろう。
なぜそんなことを問うのかといえば、ある対談が目に入ったからだ。梅田望夫と茂木健一郎『フューチャリスト宣言』(ちくま新書)の抜粋である。

●梅田望夫氏:ミューズ・アソシエイツ社長。パシフィカファンド共同代表。(株)はてな取締役。1960年生まれ。 慶應義塾大学工学部卒業。東京大学大学院情報科学修士。 コンサルティング会社「ミューズ・アソシエイツ」をシリコンバレーに設立。
●茂木健一郎氏:脳科学者。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。その他、東京大学、大阪大学、早稲田大学、聖心女子大学などの非常勤講師もつとめる。



茂木「・・・大学というビジネスモデルはもう今までのような形では成り立たないのではないかと思っています」
梅田「同感です。最近、いろいろな大学から『うちで教えてくれないか』というお誘いを受けるのですが、すべてお断りしています。何で断るのかと言ったら、例えば日本の大学で教えるとなると生活の変化や授業の準備も含めて莫大なエネルギーを使うわけですね。そのエネルギーがあったら他にできることは何だろうと考える。リアル世界で教えるかわりに、インターネットに向かってそのエネルギーを全部込めて、僕が考えていること、いま世の中で起きていることについて、ネットの向こうの読者と一緒にひたすら考え続けます」
茂木「その方が効率がいい」
梅田「かりにその大学が日本の一流大学であっても、そのクラスで僕の授業を聴きに来る五十人よりも、もっと直接的に僕の話を聴くことを切望してくれる人が、ネットでは集まってきます。僕があるエネルギーを込めて書いたら、どのくらいの人が見に来てくれて反応が返ってくるかというのは、インターネットで四年もブログを書いていればわかります。・・・」



 これだけおおくの大学で講師をされている茂木氏にしてこの発言である。いや、講師をしているからこそ実感することなのかもしれない。
 「ビジネスモデル」という言い方にも引っかかる。そもそも大学はどこまでビジネスの場に取り込まれていいのか。国立大学法人というときの「法人」という呼称は、イコールビジネスの場を意味している。だが、本来の学びの場にこの仕組みが果たして適切なのか。今一度これについては検証が必要だろう。大学がビジネスをするのと、大学でビジネスを学ぶのとではやがって全く違う結果がもたらされることになるであろう。
 茂木氏の「効率」という言葉にもちょっとひっかかるが、文脈上これは従来の効率主義とは異なるようにも受けとれる。
  一方で、両氏のように、今や旧来の原始ネット社会とは全く別世界が広がっていることに早く気付くべきだ、といった意見もある。もちろん、茂木、梅田の両氏の才能だからこそ可能なこともあるだろう。
 少なくとも上記、情報意匠論の成果は、リアルな場でのやり取りがなければとても手にできなかった。この場では、それをひと言付け加えておきたい。


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