SPAC美術総監督・宮城聡氏演出の『ハムレット』を観る
SPAC静岡県舞台芸術センターで『ハムレット』を観る。
http://spac.or.jp/08_autumn/hamlet.html
きょうが初演である。その緊張感が観るものからも、スタッフからも伝わってくる。それは私にとって、とても心地よいことだ。
来週の日曜日には私も壇上に登らなければならない。といっても(もちろん)役者としてではない。芸術総監督であり今回の『ハムレット』の演出をされた宮城聡さんとのアフタートークがあるからだ。
それはさておき、きょう舞台を拝見した感想をざっくりと書いておきたい。
舞台が始まるとすぐ、我々の期待はトップギアに入る。
まず衣装の出来が良い。ハムレットの舞台はデンマークのはずなのに、敢えてそれが削ぎ落とされ、衣装によって和にスライドされている。いや、完全な和というわけではないのだ。それはまるでタイの王・山田長政が着る衣装のようなのだ。モノクロ仕上げの中にも「山水」があるのだ。いわゆるグラデーションが発生し、手前と奥行きという風景がある。それは日本人の軀がもっとも美しく見えるカタチを衣装が整えているともいえる。
セリフがすばらしい。きちんと役者の中で「言葉が事件」になっている。我々も同時刻にその事件を「目撃」している。
音の使い方が秀逸である。あの地鳴りのような、心臓の鼓動のようなパーカッションを聴いてしまったあと、では他にどんな音が効果的であるかと聞かれても皆目見当が付かない。パーカッションが舞台と客席を間違いなくい一体化させる装置となっている。
照明が効いている。オフィーリアが命を落とし、ハムレットによって舞台上手に引きずられていくシーンでは、舞台全体にブルーの明かりが当たっている。が、一瞬目を閉じた瞬間そこには補色作用が働き、目前が真っ赤に染まるのである。それはオフィーリアの死の赤であり、矛盾する言い方だが、イメージが創り上げるリアリティーという赤である。美術や衣装がモノトーンで仕上げられている分、この照明効果が抜群に効果をあげている。
それにしても、美しい舞台である。ただただ美しいものを観たい、美しいものに包まれていたい。そう思う人はぜひこの舞台を見て欲しい。宮城聡監督の舞台にしびれた。
また本日のアフタートークは小説『リング』で一世を風靡した作家・鈴木光司氏であった。こちらの感想は特に書いておかなくても良いだろう。それでも敢えてひと言だけ書いておくなら、私は必ずしもストーリーを追いかけるようなわかりやすさは必要ないとおもう。この辺はもしかしたら今度の日曜日に宮城さんとお話をさせて頂くかもしれない。
舞台というものを観て、ここまで体の中から何かがわき上がってきたことって今までにあっただろうか。
大袈裟に云うのではない。私はこの舞台を「演劇史上 ひとつの事件」だと位置づけたい。
バックナンバーはここ↓から。「表示件数」を「100件」に選択すると見やすくなります。