平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

コストと機能の顧客満足度

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 わたしが子どものころ、近所の文房具屋さんに買い物に出かけると、必ずそこのおばちゃんにつかまり、長時間拘束された。
 「あんたのおじいちゃんは相撲が強くてね〜」とか「うちの父ちゃんは大酒飲みでおばさん困ってて シクシク」 「ところで あんた いくつになったの?」と始まるのだ。 「その話、この間も聞いたよ、おばちゃん(涙)」と平野少年は心の中で呟くのであった。 「あの・・・ぼく今から野球の試合が・・・」と喉元まで出かかるのだが、時間がいくらでもあるおばちゃんにはそんなことはまるで関係がない。こういうときの「処世術としての身のかわし方」というのは小学生にとってはひじょうに難度の高いウルトラD級の技なのだ。手に持っているアイスキャンディーは既にドロドロに溶け、表からは友人達の苛立った自転車の呼び鈴がリンリンと聞こえてくるし、おばちゃんの眼力に釘付けで貧血をおこしそうになる。でもそうして、その聞きたくない話を聞くという儀式を通して、やっと一本の鉛筆を手に入れるのだ。考えてみたら、これがモノを売るという「サービスの一環」だったし、モノを手に入れるための通過儀礼だった。ただお金さえ払えばモノが手に入る、という時代ではなかったのだ。実際ただお金を渡して、モノだけを差し出すお店の評判はすこぶる悪かった。要するに当時のお客はお店に対して「コストと機能」だけを要求していたわけではなかったのだ。

 ところで、広告業界ならびにマーケッターの間で「CS :Custmer Satisfaction顧客満足度」という言葉が登場したとき、わたしはひじょうに強い違和感を覚えた。ええええええ・・・・(呼吸困難)そもそも広告って顧客満足を高めるためにあったんじゃないの??? な、何を今更。じゃあ、今までは、誰の満足度を高めてきたの?(広告主でしょ)  マーケッターはよく以下の四つを並べながらCSを説明する。
① コストはそのままで機能を向上させる。 ②コストを下げて機能を向上させる。③機能は現状のままでコストを下げる。 ④機能を飛躍的に向上させてコストを少しあげる。
 このうちひとつでも現実になれば顧客満足度が高まったということになるらしい。わたしも基本的な部分ではこれに異論はない。だが、ここには「あんたのおじいちゃんはさ〜」という「長時間拘束的ふれあいの満足度」は何も加味されていない。多くの場合は「コストと機能」で満足度が説明される。コストと機能だけで満足が高まるなら、わたしは何も、店員さんの笑顔だけで余分に二本もペンなど買ったりしない
 


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