平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

ハチミツと世界遺産と観覧車と

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 わたしが幼稚園に通う昭和四十年頃、我が家ではニワトリやヤギやウシを飼っていた。それがいつごろいなくなってしまったのか、全く記憶がない。もしかしたら、わたしの知らないところで、わたしのお腹の中に入ってしまったのではないだろうか(事実、ニワトリは食べていた)。親に聞いてみたことはないが(こわくて訊けない)、それが事実なら何となく申し訳ない気もする。ウシやヤギとは普段はとても仲良くしていたし。
 他にはミツバチも飼っていた。巣箱は三つ。それは牛小屋の横に設置されていた。刺されるのが恐くてわたしはあまり近づかなかった。とれたての蜜は祖父が大事に一升瓶にためていて、ハレの日に何某かの料理に使っていたようにおもう。わたしは、こっそりと戸棚をあけて、一升瓶の中の白くかたまったハチミツを長めの箸を突っ込んでは舐めていた。あのときの味は今で忘れていない。たいしてお小遣いもない時代には、ハチミツが最高のご馳走だった。いやいや、ハチミツは今で貴重なご馳走である。何しろミツバチ一匹が一生の間に集められる蜜の量は、茶さじ三分の一程度。ジャム瓶の口から蜜が垂れているところを見て、あわてて口を近づけてしまうわたしを目撃したら、それは決して卑しいからではない。ミツバチに対する最上級の敬意なのである。
 実は、今でも詩人のIさんから年に数本ご自宅でとれたハチミツを頂くのだが、やっぱり一滴も無駄にしないように腹に入れる。
 
 ミツバチの想い出はまだまだある。小学生低学年のころ図書館で見た本に、どこかの洞窟に描かれたミツバチと何とかという部族の絵があった。わたしはそれまで何の根拠もなく、養蜂は江戸時代ぐらいから始まったのかなあと思っていたので、人間とミツバチのお付き合いの長さにとても驚いたものだ。
 また小学校の授業で訪問した近所の養蜂農家で蜜蝋づくりに挑戦したときのこともきちんと覚えている(田舎の小学校ならでは)。ずっと後になって、確か中学の図書館で、蜜蝋がミイラ作りには欠かせないという記述を読み、ひじょうに驚いた。自分の中で、ミイラとミツバチがつながった瞬間だ。 

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 さて、さげさかのりこさんがイラストレーターとして担当された山と渓谷社『庭で飼うはじめてのみつばち』を拝読。実にコンパクトでわかりやすいビギナーのための養蜂入門書だが、とても中身の濃い本に仕上がっている。本文中の「みつばちと暮らす一年」というカレンダーは、彼女のイラストと手書き文字の良さが存分に出ている。コピーして壁に貼っておきたい。文章も写真も良い。コンパクトな文章ながら、深い歴史や民俗学の触りにまで錨をおろすことを忘れていない。
 これも中学の図書館で見つけた本で、ある種族の男女が結婚すると、ある一定の期間ハチミツ酒を飲み続ける習慣があることを知った。何となく曖昧な記憶だったが、それが古代ゲルマン民族の習慣で、ミードという酒で、その期間をのちに「honey moon」と呼ぶようになったということをこの本は教えてくれた。すなわちハネムーン、蜜月の時のことだ。
 

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そういえば思い出したけれど、INAXギャラリーが以前『蜂は職人・デザイナー』という展覧会を開催し、カタログ代わりの本も出したが、これがまた良いできなのでお勧めしておこう。

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この蛇腹式にひらく絵本もかわいい。

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  きょうはもう一冊『Villa Tugendhat 1930Czech Mies van der Rohe』をお勧めしておきたい。筆は建築家の栗田仁さん 写真は宮本和義さんである 。
 Mies van der Roheミース・ファン・デル・ローエという建築家についてはわたしもその名前ぐらいは知っている。ナチスの迫害を受けて逃亡したアメリカで手がけたファンズワース邸は、世界遺産にも登録されている。何代目かは記憶がないが彼バウハウスの校長も務めた近代建築の巨匠である(この本で第三代目のバウハウス校長だと知る)。
 さて、この場でこの本をご紹介するのに栗田さんと宮本さんの目線をお借りてMies van der Roheミース・ファン・デル・ローエその人なりと作品を語ってもあまり意味がない。なぜならこの本を読みさえすれば、ミースの手がけたVilla Tugendhatテゥーゲンハット邸を通して彼の思想やその背景を最短距離で読み取ることができるようになっているからだ。
 それよりもわたしは、この一冊のテキストを通して、世界中の名建築を見て歩いている稀代の建築家とカメラマンが、いったい名建築のどこをどんな順で観察し、切り取って言語化しているかに注目して、そこからモノの見方という「方法」を取り出すことの大切さを示唆しておきたい。彼らの目線と言語化という方法はあらゆる建築を観る際の「まなざし」に応用できるはずである。同じなぞるのであれば知識ではなく方法をなぞりたい。
 もう一つ云っておくなら、この写真を観ながらサムネールをおこしてみると、なるほど、こう切り取って観るんだな、ということもよくわかる。

なお、栗田仁さんのサイトからはまだまだ別の名建築の旅に出られる。ぜひ、覗いてください。
http://www5f.biglobe.ne.jp/~j-archi/


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 うわっ! Rさんが、手作りペーパークラフトの観覧車をおくってくださった。すごい出来である。ビックリする。また乗りたくなっちゃったな〜、観覧車。
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/555.html
Rさんの情報によればお台場の観覧車がもうすぐなくなっちゃうんですって。えっ〜。

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