極々日常を意識化して「技」にする
雑誌『すろーらいふ』のカメラマン H田さんとカフェで三時間の雑談(ぞうだん)。「中山間地域」(「なかやまかんちいき」なんて読まないでね)に対する彼女の思いやアイデアをうかがう。
中山間地域の人々の生活を広く紹介して、それを何某かのイベントに結びつけて紹介、そうして地域の活性化をはかりたいというのが彼女の野望である。
わたしがまず話したのは、「中山間地域」という農業の専門用語をなんとか噛み砕きたいということ。雑誌の一回キリの特集や行政のつくるパンフレットでは成立する「中山間地域」なる用語だが、「中山間地域でイベント開催」と聞かされてもあまり魅力を感じない。すなわち「名前に色気がない」のである。
そもそも中山間地域とは平地の周辺部から山間地に至る、あるまとまった平坦な耕地の少ない地域を指していう。都市的地域、平地農業地域、山間農業地域、中間農業地域などと区別して使われる。
一読してどうだろう。一般人にとってみたらいったいなんのことやらであろう。一読して隣の人に自分の言葉で説明できない定義は決して広がらない。それを冠にイベントを計画しても果たして成功は望めないだろう。
それからもっとも大事なのは、中山間地域に住んでいる方々にとってみたら何でもない日常の風景が、実は別の人から見たら大変な財産であることを(中山間地域に住んでいる人々に)認識して頂くことだ。
「技はそれを持っている人間が技だと意識して、初めて技と成り得る」、そういうことだ。それは何でもない日常を「ハレだと再認識する」ことである。エクボの凹みをたんなる身体的な特徴であると思っているとそれは何でもないただの皮膚の凹みでしかないが、エクボを意識して相手に見せることによって、それは悩殺ポーズにも成り得るのだ。それは何でもない身のまわりをお宝に変えるための「意識のモードチェンジ」なのである。
具体例を引こう。徳島県のほぼ中央に位置する上勝町、人口2200人足らずの高齢化が進む小さな山村である。見渡す限り山、山、山、お年寄り中心の趣味の農業以外、取り立てて目立つ産業もない。いや、それまでは、なかったのだ。ここでは今お年寄りが中心となって「葉っぱビジネス」なるものを展開している。葉っぱビジネス? 聞き慣れない響きだ。
上勝町では村のあちこちに生えている(村の人々にとっては何でもない)葉っぱを、一枚25円とか100円とかで、高級料亭などに卸すというビジネスで大成功をおさめている。それによってお年寄りが生き生きと暮らしているのだ。葉っぱがお金に? まるで、狐に化かされたような話である。驚くことに葉っぱの売上は村全体で年商2億円とも3億円ともいわれている。それまで昼間から一升瓶を下げて飲んだくれていたお年寄りが今ではパソコンを駆使して、一生懸命に働いているのである。書きだしていくときりがないのでリンクを張っておく。覗いてみて欲しい。
●http://plaza.rakuten.co.jp/awabancha2/
●http://www.irodori.co.jp/
この上勝町のすごいところは、「真似されるからビジネスの方法は教えない」という態度をとらないことだ。むしろ真似してくれと言わんばかりである。しかし、他人の成功は単純に真似できない。もしもそれが可能なら日々連打されるビジネスの成功書が、膨大に次なるサクセスストーリーを生むはずだ。だが滅多にそんなことにはならない。細かな説明は避けるが、成功の秘訣はハイデガーのいうところの「自熟」と「時熟」のクロスポイントを意識的に作り出すことにある。すなわち「技の意識化」なのだ。
それから先日「脳内探訪」にアップした滋賀県の針江の取り組みもまた然りである。くどいようだがこれもまた日常の意識化によって、生活のビジュアル化に成功している例だ。
●http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/509.html
すなわち何でもない日常の意識化に必ずヒントがあるということだ。それは仕掛ける側、参加する側の問題というよりも、今そこに生活している人々の意識をある価値へとスライドさせることだ。 H田さん、期待していますね。
夜は大学生H野くん、Tちゃん、そこへ大御所Mさんの舌鋒が加わって、キャベツは虫が食う方が美味いか、あるいは不味いのかといった科学的検証を楽しんだり、宮崎アニメでああでもない、こうでもないと盛り上がり、議論は白熱。そのまま全員でカフェauraの3周年記念へ繰り出す。クタクタの平野に見かねたS藤さんが身体施術をしてくださり恍惚の状態のまま真夜中に帰還。あ〜 きょうも頑張ろう。じゃんじゃん。
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