平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

守破離という装置 〜樂吉左右衛門館を訊ねて あるいは浄瑠璃寺  2008/07/11

jyoururi2

jyoururi3

jyoururi5

jyoururi4

zyoururi1

◆ずっとこの眼できちんと見たいと思っていた京都は浄瑠璃寺に足を運ぶ。
 浄瑠璃寺の伽藍配置は、大きな日時計であり、暦であり、極楽浄土をこの世に再現した装置である(以下、配置図を見ながら読んで頂きたい)。

zyoururi6


 本堂は西に配置され、西方浄土(彼岸=あの世)をイメージして九体阿弥陀を安置する。また本堂の前には大きな池(結界)が配置され、その対岸が此岸(この世)となる。いわゆる、ここには「あの世」(西)と「この世」(東)が同時にデザインされているのだ。
 古来より人々は、極楽浄土の阿弥陀如来の来迎を願って手を合わせてきた。春分・秋分の彼岸の中日には、本堂の対岸(この世)から昇ってきた太陽が、その池の中心を渡り、やがて本堂の真ん中に位置する中尊(阿弥陀如来)の真後ろに沈んでいく(この意匠は「二河白道」の見立て)。この際、太陽の光を全身に浴びた中尊は、左右に四体ずつ配置された仏像に光りを送り、九体すべてが金色に輝きだす。すると本堂内部は極楽浄土に様変わりすのである。
 それはとてつもなく巨大な曼荼羅宇宙という装置なのである。今グラフィックデザイナーやウェブデザイナーに不足しているのは、いかに平面を見栄え良くデザインするかではなく、この視点なのだ。

 なお宇治平等院も同様の「装置」なので、そんな視点で見ることをお勧めしたい。出かけている時間がないとお嘆きの貴兄は、財布の中の十円玉をしばし眺めてみたらどうだろうか。


///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

raku1


◆琵琶湖の東岸に佇む佐川美術館に足を運ぶ。ここには日本画家・平山郁夫、彫刻家・佐藤忠良、陶芸家・樂吉左右衛門の作品が収められている。今回の目的は、なかでも樂吉左右衛門館にあった。

 樂家は茶人千利休の茶碗を作っていた陶工の家系である。その十五代当主が今回の主役・樂吉左右衛門である。樂さんにはかつて一度だけある会でお会いしたことがあるが、短髪で少年のような眼差しをしていて、常に海外から日本のすばらしさを語り尽くすというスタイルをしていた。四百年続いてきた樂家がこの人物によって変わる!と早くから感じさせる何かを秘めていた。


 さて、この美術館には「水没する茶室」があり、それを貫くテーマが「守破離」である。守破離とは千利休の言葉で「規矩作法、守りつくして 破るとも 離るるとても 本をわするな」としてあまりにも有名だ。まずは型を徹底的に守る(真似る)。来る日も来る日も真似て真似て真似ているうちに、それらをやっと応用できるようになる(破)。そうして、その先にやっと「型破り(離)」というものがある。いわゆる「型があるから、型破り」という意味、それが守破離なのである。

 樂吉左右衛門の守破離とは、ある茶碗の作陶を前に、守の作品であると思った瞬間、そこから離が現れ、離だと思った瞬間に破が立ち現れる。いわゆるある到達点をもった茶碗には守破離が分かちがたく内在しているということが分かるのだ。

 守破離は、最初から「個性の教育」「オリジナリティの教育」を看板に掲げる現代の教育を嗤っている。オリジナルの教育をいう関係者諸氏は、利休や世阿弥でも読み直してみたらどうだろう。

raku2

raku3

raku4


 さて、樂吉左右衛門の市中の山居「水没する茶室」は、なんとその美術館のアプローチに広がる大池の真下に配置される。そうして、その水や光りが路地や茶室に実に巧みに取り込まれるように設計されているのだ。天井の明かり取りからは、四季それぞれ、その日その時の光りが射し込む。水は踊り、光りはたゆたう。待合いや路地、茶室には、海外の石や木材がふんだんに使われている。だが不思議にすべてが「和」の茶室なのだ。伝統をきちんと踏まえながら、そこを何度も何度も擦りながら、そこから逸脱していく感覚。それは茶室そのものが守破離であることを雄弁に、そうして寡黙に物語っている。


///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

enzyozi2

(↑)写真は、奈良市忍辱山町にある円成寺にある運慶作・大日如来坐像(国宝)。

12-112-2

祇園の夕暮れ。ごちそうさまです。 


バックナンバーはここ↓から。「表示件数」を「100件」に選択すると見やすくなります。

現在地:トップページ脳内探訪(ダイアリー)

サイトマップ