平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

おっさんミーティング 第4弾

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映画『ツヒノスミカ』(山本起也監督・スペイン映画祭監督賞受賞)を観ていたら、携帯に留守電が入っていた。おやおや、例のお方である。
不思議なもので何度連絡を取り合ってもなかなか会えない人もいれば、ねぇ 今から30分だけいい?と電話をもらってすぐに会える人もいる。おっさんミーティングのK郎さんは完全に後者のタイプである。
きょうは午前中の予定と午後二時からの審査会との隙間に、K郎さんが割り込んできたというわけだ。せっかくお昼の時間を使ってカフェで読みかけの本を読もうと思っていたのに。「30分だけですからね」。
おっさんミーティングのK郎さんとはビジネスつながりである。だから二人の間にはお金のやり取りが発生している。基本的にわたしが頂く方だ。だが、いつも打合せもそこそこ、すぐに話が脱線転覆、収拾のつかないことになる。まぁ、いいか〜。


「・・・というわけで、企画書出してね。来週水曜日午前十時締め切り。午後から会議だから」 「っていうか、時間、まったくないじゃないですか〜」 「ちゃちゃちゃとやっつけちゃってよ。今話してくれたアイデア、それすごく気に入ったからさっ。それをまとめてくれればいいから」 「絶句・・・」 「五言絶句 七権律詩」 「冗談言ってる場合じゃないですよ」 「それはそうと、ついこの間、脊椎動物の祖先はナメクジウオだというニュースが流れたけれど、あんなことわたしは三十年前から云っている。ホヤであるわけがないんだから」 「占い師の地震予測みたいですね(笑)起きてからわたしは予想してたんだっていう言い方、インチキ臭いですよ」 「何を言っているんだね。前にも平野君には話しただろう〜」 「あぁ、そういえば赤提灯で聞いたような気がします・汗。すみません。そうでしたね、さすがです。ただ遊んでいるだけじゃないんですね(笑)。ナメクジウオから脊椎動物とホヤの仲間が分岐したって確かにK郎さんはおっしゃっていました(このおっさん、ほんとカンだけは凄いんだなあ)」 「それだけじゃないよ。わたしは、類人猿は少なくとも五種類はいて、他の種はとっくに滅亡して、我々人類の祖先はその中の一種類で、それだが生き残って進化したんだということも百年前から云ってるよ。別に勉強したわけじゃないから全部カンだけど(笑)」 「はいはい、その五種類という数字はあてになりませんが、今おっしゃっているのは現生人類単一説ですね。現生人類の祖先は、アフリカ東部から紅海を越えて、南アラビアを経てインドへ向かった数少ない人類だという説です。一方で多地域進化説もある。要するにジャワ原人やネアンデルタール人など複数の人類が別々に進化していき、それらの種があるタイミングで混合しあって今の我々がいるという説ですね」 「もうDNA鑑定が解答を出しているだろう」 「はい、今は単一説が有力です」 「ネアンデルタール人が我々祖先なわけ?」 「イヤ違います。ネアンデルタール人は三万年前に既に絶滅しています。脳の大きさはほぼ我々の祖先ホモサピエンスと同じ大きさだったようですよ。何たってヨーロッパの氷河期をその知恵で生き抜いたんですから。人口も50万人はいたといいますから凄い集団です」 「どうやって氷河期を生き抜いたわけ?」 「頭蓋骨、特に喉元の骨からの推測なんですが、声でコミュニケーションしていた。それで寒さから逃れるための情報交換をしていたというんです」 「そうか、それに動物を共同で捕獲するのは声によるコミュニケーションが必要不可欠だからね。そうそう、おもしろいのは今の人間のように心を持っていたんじゃないかといわれているよね」 「はい、死者をきちんと埋葬していたあとが見つかっています。ということは心を持っていたということなんです」 「宗教もあったかもね」 「いや〜 それは性急すぎますね。どこからが宗教というかはわかりませんが、少なくとも神や超越した存在がないと宗教とは言えないでしょう。原始宗教はまだ先のはなしでしょうね。集団生活ですから規範の芽生えはあったかもしれません」 「宗教のいちばん硬い部分が、のちに法律になって、そのいちばんか退部分が国家の礎になったというのは何かで読んだな〜。それはそうと、君は完全に縄文顔だな(笑)」 「大きなお世話です。もう行きます。今から某審査会なんです」 「人間って面倒だね〜、そういう約束事という縛りがあってさ〜。とぼけて欠席してみたら」 「はいはい、では来週までの企画書をとぼけてみます(笑)」 「それは別のはなしだろう〜」 

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※映画『ツヒノスミカ』にも登場されていた山本監督のお父様とは、FM放送の番組審議委員会でご一緒いただいている。きょう偶然お会いして、映画の舞台裏が色々聞けた。


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