平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

中学生諸君、シンポジオンが大事である

atom28



中学生諸君、さっそく学区探訪の感想メールをありがとう(学区探訪に関してはhttp://www.hirano-masahiko.com/tanbou/494.html
「大人になったら、いっしょにお酒が飲みたいでーす」って泣けますね。
うれしいなあ。おっさん冥利に尽きますね。

ところで、いっしょに酒を飲むということがどういうことか、少し書いておきます(飲めないやつが云うのも説得力がないけれど)。
古代ギリシアでは(いきなり大袈裟)いっしょにお酒を飲むこと、あるいはその空間・時間のことを「シンポジオン(シンポシオン)」といった。そう、あるテーマに一家言ある人々が集って話を深める今の「シンポジウム」の語源だね。ギリシアの哲人プラトンに、有名な書物『饗宴』(きょうえん)があるんだけど、この原題が『シンポジオン(シンポシオン)』なんだ。要するにこの本では、先生や仲間といっしょにお酒を飲んでいる様子を書いているんだよ。哲学書だからって堅苦しくないでしょう(笑)。

さて、そのシンポジオンでは酒(日本酒じゃないよ、ワインね)を酌み交わしながら何をしたかというと、徹底的に「対話」を繰り返したんだ。だからプラトンやその先生ソクラテスの書物全体を指して「対話編」というのです(ソクラテスは一冊も本を書いていないよ。弟子のプラトンが先生の言葉を拾い上げていったんだ。ブッダや親鸞と同じだね)。
え〜 それってお父さんたちが赤提灯に集まって会社の愚痴をこぼしながら「対話」しているのと何が違うかって? いや、基本的に同じなんだけど(笑)シンポジオンではテーマがしっかりと決まっていて、対話を繰り返すことで物事の核心へと魂という錨(いかり)を降ろしていく。会場には赤提灯は下がっていなかったけれど(笑)その代わりに(事実だから云うんだけど)石でつくった男性のシンボルが置かれていたりしたんだ。

で、ここからがおもしろいんだけれど、参加者はみんな薄着になって頭をくっつけ合って裸同然で寝ころんだんだ。そうして日がな一日「対話」した。で、ときどき男性は好みの男性を誘ってはいっしょに寝ころんだ。いやいや、それが普通だった。それはね、魂が呼び合っているってことなんだよ。
というのも、人間にはもともと、男と男がペアになってくっついているもの、男女がくっついているもの、女と女がくっついているもの、その三タイプがあったと信じられていて、ここにギリシア神話の最高神ゼウスが雷を落とし、人間を半分にしてしまった。以来、人間は完全なる状態になることを目指して互いに求め合っているという話になるんだ。
なかでも当時は、男と男のペアが最高の精神の状態とされていて、だから男はより優秀な男を求めて、そうして結ばれていったんだ。いやいや、これらの話は眉間にシワを寄せるようなものじゃないし、隠すことでもない。それは「今ここ」で知るか、あとで知るかのどっちかでしかないからね。二千数百年も前から伝わる本を今更焚書してもしょうがないし。
そうして男は次から次へと優秀な男を求めて「関係」を持っていった。関係を持つことで愛をどんどん積み重ね、蒸留させ、自分の中により高純度な愛を育てていったんだ。それが「エロス」ということね。エロスってエッチなことと違うからね。勘違いしないよーに。ちなみにエッチってHENTAI (変態)の頭文字から来ているんだよ(どーでもいいか〜)。エロスについてはジョルジュ・バタイユというフランスの思想家が興味深い本を書いているので読んでおくといい。

と云うわけで(どーゆーわけだ?)酒は妙薬だけれども、これとうまく付き合うことで、世界がぐーんと広がるんだ(らしいよ。中国の詩人李白も教えてくれる)。
そう、きょうは人ときちんと対話を繰り返すことがいかに大事かということを君たちに伝えたかった。そのときには必ずうまい酒を飲み交わそう。もう少し大人になったらみんなでシンポジオンしましょうね(古代のシンポジオンじゃないからね・汗 酒を飲みながらの対話ね・汗)。メール さんきゅう。うれしかったよ。またね。

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