てんてん堂 〜ちばえん&あさいふみの仕事にあそぶ 2008/05/05
これらの作品群こそ、実物を目の前にしなければ本当の良さがわからない。
御殿場で開催された『お話cafe』におじゃました。会場は HAPTIC HOUSE
http://www.haptichouse.com/ 既に林の中にある空間そのものに力がある。オーナーは長尾隆行さん。今回の催しはそのHAPTIC HOUSE 創業1周年を記念して企画された(ケーキも珈琲もおいしかったですよ)。
イラストレーターちばえんさん http://www.d6.dion.ne.jp/~rejigon/が自作の本を使って朗読してくれると聞いて、はやばやとMOLESKINEに予定を朱で刻んでおいたのだ。
ちばさんとは、数年前に同じ雑誌を舞台にお仕事をさせて頂いた。彼女は、力作「未来予測?すごろく」を発表し、私は鼎談で登場した。以来、ちばさんとは仲良くさせて頂いているのだが、実は彼女の作品の全貌を拝見するのは今回が初めてである。
唸った!
彼女はいくつかのタイプの作品を発表されているが、なかでも注目すべきは、イラストで描き上げたキャラクターを相方のあさいふみさん(二人のユニット名が「てんてん堂」)がミシンで刺繍するというものだ。
内一つがその手法で仕上げた書物である。それは気の遠くなる作業であり、完成品は常に一点モノである。
私がすこぶる気に入ったのは、『鳥獣人物戯画』や『北野天神縁起絵巻』も真っ青のちばんえん作『のあそびのであひ』である。今回は特別に、それを作者であり語り部でもある彼女が右から左へ、横へ横へと物語を読み上げていく。長椅子に腰掛けた観客は、その話しっぷりにいつの間にか前のめりになり、気持ちもいっしょに巻きあげられていく。いわゆるそのボーカリゼーションや観客まで含めて一つの作品が完成するという塩梅である。
ご存じのように絵巻物は、巻きあげるという時間的行為のなかで話が展開する。通常の書籍のようにどこからでも「物語時間」を無視してあるシーンへと直接介在することは許されない。
たとえば『土蜘蛛草紙』という作品で、化け物である土蜘蛛に遭いたいのなら、最初から時間をかけてそのシーンまで物語を巻きあげていかねばならない。そこがページモノと絵巻物が大きく異なる点である。なぜこんなにもすばらしい形態の書物が日本では誕生し、そうして今では廃れてしまったのだろう。愕然とする。
さて今回この催しには、他にも何人かのアーティストが参加した。
群馬県から参加したテクノポップバンド「イポップサン epopsan」http://epopsan.com/ は、「ケータイ アンテナ」をモチーフにした手作りの紙芝居を読み聞かせてくれた。
紙芝居が一通り終わると、今度は同じストーリーをボーカル・バージョンで演じてみせる。や〜 これが実に良かった。同じ話を違うアプローチで追随させる。これによって話が圧倒的な深みを帯びるのだ。平野、大絶賛!! 参加したおおくのこどもたちも目がキラキラ輝いていた。こんなアプローチがあったんだ。紙芝居終了後、ユニットのお二人(めちゃめちゃかわいい男女のユニット)にうかがってみたら、ボーカル・バージョンどころか、紙芝居そのものが初の試みはだとおっしゃっていた。えーっ、本当ですか。すっかりファンになりましたよ(epopsanはYou Tubeでも見られますね)。
また同じ会場にはリン版画工房さん http://www5d.biglobe.ne.jp/~lin/が、で古版木で刷ったポストカードを展示されていた。
考えてみたら、商業的には紙と活字の蜜月の時はもはや終焉を迎えている。そんななか、このような作品と機会を提供されている方がいらっしゃって、とても心強い。
今の商業印刷のほとんどは、インクが紙の上を「なでるように置かれる」。紙に「刻印する」という活字感覚(活版印刷)は、もはや版画家や詩人の間で特権化されていると勘違いされ、それはレッドデータ化されてしまった。といっても最近私の周りでも、名刺を活版印刷で製作したという方が何人かいて、大変たくましく思っている。
またリン版画工房さんと「朗文堂」(片塩二郎代表) http://www.ops.dti.ne.jp/~robundo/とのつながりも見えた。朗文堂という版元は、国家プロジェクトで行わなければならないような仕事を自らに課し、すばらしい仕事を膨大に残している。ぜひ彼らの造った書物をひとりで多くの方に手にして欲しいとおもう。
さらに、会場でお話させて頂いたちばえんさんのお母様は元平凡出版(現・マガジンハウス)の辣腕編集者で、雑誌の黄金期にその屋台骨を支えた。そうしてあの向田邦子を担当され、育て、育てられるという関係を築いた方である。そう、向田邦子といえば最近私がこの「脳内探訪」に書いたばかりではないか。
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/418.html
強くイメージすればこういった巡り合わせが待っているということだ。
いや〜、そんなわけで中身の濃〜い一日であった。
↑ 手袋のなかに生息するという摩訶不思議な化物
↑「供物」というシリーズでは、「音連れ(訪れ)」がテーマになっている。
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