平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

推敲の痕跡 〜ボードレール

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 ボードレールのオトグラフをはじめて見たのは、ある人物に半ば強制的に引きずられて行った銀座の画廊だった。
 そこではじめて間近に見たボードレールの直筆は、言いようもないガサガサとしたムードを漂わせていた。
 いわゆるずっと耳にしていた「それ」だった。これこそ、のちに小林秀雄やフーコー、ベンヤミン、マラメルやレヴィ=ストロースたちを次々と呑み込んでいった憤怒とも映る「推敲の痕」なのだ。そうしてこの「痕」は、だれの指図にも従わないあのダンチョウテイの荷風オジサンをも頭から丸呑みにしてしまった。
 カトリック教徒のボードレールは、いつも神を傍らに置きながら、同時に悪魔を添い寝させた。神への冒涜、それがかれの創作のエネルギーともなった。敢えてこの両者を目の前で掛け合わせながら、その均衡の裂け目から湧き出す言葉だけを掬い取った。
 それにしても『悪の華』とはなんとドキドキするタイトルか。ある方からボードレールのオトグラフのポストカードが届き、10年ほど前の衝撃が蘇ってきた。

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