平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

名に込められる世界

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◆ちょっと、そこの大学生風のお嬢さん、新幹線の中で爪切るの止めてくれませんか。


◆コピーライター土屋耕一の回文が好きだ。数年前には村上春樹まで回文集を上梓したが私の中では相変わらず土屋耕一の回文集がナンバーワンである。
 その回文と列んで言葉遊びでは、アナグラムが好きである。ACTがCATに“化け猫”してしまうし、Florence Nightingaleナイチンゲールは flight On、Cheering angel“ 跳び続けよ、慰めの天使”となる。
アナグラムはもともと一種の占いとして用いられた。それは自分の(名前の)中にどんな可能性が秘められているかを、アルファベットを並べ替えて掘り起こしてみせるという手法である。それは呪術の一種である。
 そもそもフランス詩人の間にアナグラムを流行らせたのはジャン・ドラだ。彼の弟子Pierre de Ronsardピエール・ド・ロンサールは自分の名前をアナグラムで読み替えRose de Pindare「ピンダロスの薔薇」としギリシアの詩人を演じてみせた。またMarcel Duchanp マルセル・デュシャンは Marchand du sel『塩の商人』というタイトルで散文を一冊にしたのは有名な話だ。そういった意味では彼らも言葉を操る呪術師なのかもしれない。

 そういえば、イギリスの古代遺跡にこんな魔法陣が描かれている。

 SATOR
 AREPO
 TENET
 OPERA
 ROTAS

 上下左右 どこから読んでも同じで、ラテン語で「種を蒔く人アレポが働いて車輪を支えている」といった意味になるらしい。なるほど、文字には天地左右の意味世界が広がっているのだ。言霊世界、『千と千尋』なのである。
 そうして言葉遊びといえば、忘れてならないのが「弁慶読み」。最近は、こんな遊びは流行らない。「弁慶読み」が大いに流行ったのは、昭和35年生まれの私が小学生のころだ。ピリオドを打つ位置で意味が全く変わってしまうという例の編集的文節法だ。「弁慶が長刀を持って」が「弁慶がな、ぎなた(偽ナタ)を持って」と大変身してしまうことからこのネーミングがついた。もちろん英語にも「弁慶読み」のようなものはある。You must not eat fast.“早食いしてはいけません”がピリオドの位置を変えただけで You must not eat. Fast.“食べてはいけません。絶食しなさい”となる。 他にも(1)Man is, generally speaking, ・・・(2)Man is generally speaking.(1)は“人というものは、概して・・・”となり(2)は“人はだいたいいつも喋っている”となる。
 ところである学校の仲間が、わたしの名前“ひらのまさひこ”を“こひのひらさま(恋の平様)”とアナグラムで遊んでくれた。わっ、すごい〜!!そんな可能性が秘められていたの〜と手をたたきかけてそちらの方に目をやると、にやりと笑っているのが妙に気になった。

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