身体論としての女性誌 〜『小悪魔 ageha』
卒業式のあとTAKU-chanとCHIHIROさんと、東京から駆けつけたMINAMIくんとお茶を飲みながら話していたら、『小悪魔 ageha』の話になった。
何ですか、それ?
いや〜、それがですね、ひとことで云うと「アゲモ&アゲ嬢系身体論」の話なんですわ。
良く聞き入ってみると、まずは『小悪魔 ageha』というのは雑誌の名前(インフォレスト株式会社)。新種の蝶ではありません。どうやら『今よりもっとかわいくなりたい美人GALのための魔性&欲望BOOK』がコンセプトの雑誌で『キャバクラ嬢の教科書』と位置づけられているらしいのです。
さっそく駅構内のコンビニに走って件の雑誌を開いてみると、端から端までオールカラーのゴージャスなつくり。
あぁ、その前に云っておくと、コンビニや書店でこの雑誌を探そうとしても、おじさんやおばさんにはうまく見つけることができません。
「おとうさん、コンビニに行くならついでに『小悪魔 ageha』買ってきて〜」といわれても気安く引き受けると大変なことになりますぜ。なぜなら書名がきちんと見えないからです。「見えないデザイン」です。これは「ターゲット以外は完全に無視する」という販売戦略。最近のコミュニティづくりの特徴です。もっと端的に云えば「ターゲット以外を拒むデザイン」なのです。
話を元に戻して中身の話。
これがなかなかオールカラーでゴージャスだというところまで話したいと思いますが、そうそう、それが同じゴージャスでも『家庭画報』の「高級青磁を韓国に見に行く」や「銀座に行きつけの店を持つ」や「一度は行ってみたい一日一客のおもてなしの宿」なんて特集はどこにも出てこない。ただただずーっと止めどもなく、すさまじくメイクしたり、キティちゃんやブライスのコスプレをしたりしている女の子たちがめくってもめくっても尽きることなく登場してくる。
そもそも「アゲ嬢」とは、この『小悪魔ageha』という雑誌から生まれたギャルの新形態で、従来のギャルとは違って色が白く、お姫様ファッションのピンクのフリフリで身を包むのが特徴である。ポスターカラー等でメイクをする「ヤマンバ」とは違い、一流の化粧品等で体や顔の手入れをすることも怠らない。
その場に居合わせたTAKU-chanとわたしはボ〜となり口を開けっ放し。MINAMIくんは得意げにそのサイトをすぐさま携帯で検索してわたしたちに見せつける。
参りました〜、ついつい知らないわてらが勉強不足です〜と何が悪いのか反省してしまう。
CHIHIROさん曰く
「奥が深いんですよ。普通の雑誌はモデルが広告主の化粧品を使って、これがいい、とやりますけど、この雑誌はそれがない。本音の化粧品情報が手に入るんです」
へー、そんなもんなんですか。
そこでさっそくこの雑誌を編集しているインフレストのサイトを拝見すると「企業理念」にはこんな記述がある。
1. 情報を単なる知識としてとらえることなく、読者自らが使いこなせる「価値ある情報」として構築する。
2. 「価値ある情報」は、受け取った読者が自らのアクションを起こすために活用されて「本当に必要な情報」になる。
3. 読者のニーズを知り尽くし、「本当に必要な情報」をタイムリーに提供できるシステムのもとに出版活動をおこなう。
この思想、一人ひとりの個性ある「クオリティ・オブ・エクストリーム・ライフ」にスポットを当てることこそが21世紀型の総合出版社を目指すインフォレストの理念です。
要するに「うち雑誌でタイムリーに紹介していることは、自ら動いて自分のものとして使いこなしてね。それが本当の価値というものだよ。知識だけじゃ情報じゃない」と説いて(脅迫して?)いるのだ(ある意味、的を射た発言)。なるほど、読む雑誌ではなく「使いこなす雑誌」「持ち出す雑誌」「ポータビリティ・マガジン」ということですか。『地球の歩き方』ファッション版みたいなものかな(おっさんは喩えが古い)。
CHIHIROさんは続ける。
「自分のお気に入りのモデルを見つけ、そのモデルになりきるにはどんな化粧やファッションをしたらいいのか、いってみればこの雑誌はそのためのテキストなんです(やっぱりなっ!!)。そうしてカリスマモデルになりきり、この雑誌とタイアップしているプリクラで写真を撮る。で、自らをモデルと比べながら採点するんですよ。もちろん簡単にモデルを真似られるためのドレスやコスメを販売している通販サイトもありますよ http://ageha-shop.com/」。
うひょう〜 それって「型を真似る」っていうことですか。
きっとこの雑誌を小脇に抱えて「アゲモ&アゲ嬢」と呼ばれるお嬢様方がプリクラに列ぶんだろうな〜。
更に彼女の暴走トークは続く。
「例えば付け爪をしますよね。そうすると指先でしかモノがつかめない。だから自然と付け爪をした動きになっていくんです。付け爪が行動を制限するっていうんですか〜」
うぉ〜 それって身体論じゃないですか。
下駄を履けば下駄の動きに、雪駄をつっかければ雪駄の動きに、着物を着れば着物のつくりによって「人間の所作や行動はデザインされる」ってことですね。認知科学のアフォーダンスですぜ、姐さん。
世も末だと嘆いているおじさん、おばさん。身体論として『小悪魔 ageha』を眺めてみてはいかがでしょうか。
恐るべし、『小悪魔 ageha』。
CHIHIROさん、『小悪魔 ageha』で卒業後初の論文を、ぜひ。
※なんだかこんなブログも見つけちゃいました。
http://crewayaka.seesaa.net/
ここにリンクされているブログは、すさまじい。まったく自分が持っていない感覚だ。
デザインは完全にプリクラをそのままを使っているって感じですね。
それから、とにかくタイトルが見えない。書名の一部がモデルの写真などと重なって見えなくなるというデザインはここ十数年増えてきたけれど、最初から書名が見えない(見づらい)というのは珍しい。