平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

情けの雨か

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 きょうは霧雨。このところ静岡市は雨が多い。しかもこんなにも冷え込むと、箱根から東は今夜雪になるかもしれない。静かに、そう、音もなく降り積もるかもしれないな。

 ところで傘をさしながらぬれた歩道を歩いていると、野口雨情の名がふと浮かんできた。雨情は、なぜ情けの雨なんて悲しい名前を自ら背負ったんですかね。もっとも「雨情」は漢詩「雲恨雨情」から採ったもので、それはしめやかな雨に心が傾いていくという意味なのだけれども。でも陽に心が傾くのではなく、音もなく黒髪を撫でるように降る雨に心が傾いていく、この消息感には、やはりじ〜んと来てしまうのです。齢のせいでしょうか。 
 実際に、彼の童謡や民謡には寂寥を覚える歌が多いのです。それは個人の悲しみを越えた、いかんともしがたい切なさのようなもの。どこかへ連れ去れてしまうような、そんなこわさがあるのです。もちろん雨情には「ソソラ ソラ ソラ兎のダンス」といった一見すると陽気な歌もあるのですが、やはりこの歌詞にさえもどこかもの悲しさが見え隠れするのです。

 そこで書肆に立ち寄り雨情の在庫を訊ねると、果たして店員は何度かその名前を聞き返してきた。雨情さえ知らない人が増えてきたのですね。雨情の研修書ですら絶版やら在庫なし、とのこと。そういうものなのですね。
 雨情を知らない、聞いたことがない、そういう人でも『シャボン玉』『七つの子』『雨降りお月さん』『青い目の人形』このあたりはご存じのはず。中でも有名なのが『赤い靴』で、その登場人物の女の子は静岡市清水区(旧清水市)出身の岩崎かよの娘きみがモデルなのです(大丈夫ですか、静岡人?)。
 
 霧雨は夕方になって上がったようです。
そう、雑感です。霧雨が黒髪を撫でるように、そっとそっと綴っておきたかったのです。
 雨情の命日には、ちょっと間に合いませんでしたがね。

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〈赤い靴〉
赤い靴 はいてた
女の子
異人さんに つれられて
行つちやつた



〈シャボン玉〉
シャボン玉 飛んだ
屋根まで飛んだ
屋根まで飛んで
こはれて消えた

シャボン玉 消えた
飛ばずに消えた
生れて すぐに
こはれて消えた

風 風 吹くな
シャボン玉 飛ばそ

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