平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

新訳ブーム

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 ラジオ番組で近年の出版状況と今年わたしが読んだ本の中から何冊かをご紹介した。ここではほんの少しだけその補足を記しておきたい。

 このところ海外文学の新訳が続いている。村上春樹あたりが火をつけたのだろうか。そもそも翻訳の耐用年数が20〜30年程度と言われているから、そのタイミングもあるのだろう。新訳の場合、新しい研究成果を反映させ、言葉遣いも変えるのだという。確かにドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』では、イワンが「やったぜ!」と叫ぶ。わたしは岩波で読み慣れているからなんだか妙である。そのカラマーゾフ(光文社文庫)は全五巻で、なんと55万部位上の売れ行きだという。いったいだれが読んでいるのだろう。

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 そんな中、なんと国内では18年ぶりに河出書房新社から世界文学全集の刊行が始まった。しかも池澤夏樹個人編集という試みだ。全24巻計36の作品は20世紀後半からのもので編まれるという。何を意味するのか。それはまだ評価の定まっていない「これからの古典」を選ぶ作業ではないだろうか。
 その池澤が、この全集に国内作品を敢えて入れるなら石牟礼道子の『苦海浄土 わが水俣病』だとどこかで云っていた(実際には日本の作品は入っていないようだ)。池澤作品やこの全集を読む前に、三年前に読んだ『苦海浄土』を再読したくなった。

 もう少し細かく記しておきたいが、腱鞘炎の手がもはや一度に打てる限界である。

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