平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

掘り出し物なんかない

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 今や掘り出し物なんかほとんど出ない。昔ながらの古書屋の話である。
いっとき古書店のオヤジたちはBOOK ○○Fなどの新古書店の悪口をずいぶんと並べていた。「奴らにゃ、本の価値や価格なんかわかりゃーしない」と。ところが、最近その新古書店の方が掘り出し物が多く出る。なぜか。
 ひと昔前、まだネットが今のように普及していなかったころ、古書屋のオヤジがどのくらい勉強しているか、それがそのまま古本の価格に反映されていた。彼らは自分の足で歩いて勉強もした。自分の苦手なジャンルや、ちょっと油断して不勉強でいると高価な書物も安値で投げ売ってしまったり、逆に高い値段を付けて客から失笑を買ったりしていた。いっとき、澁澤龍彦や三島由紀夫の初版というだけで、高値を付けられて神棚に坐っている書物をずいぶん見た。
 だが最近は昔ながらの古書屋も、ちょこちょこちょこっとネットで検索して、あの店がこんな価格だからうちも右へ倣え、と こうである。こんな環境では掘り出し物なんか出るわけがない。口うるさい客が古書屋を育てるといったこともほとんどなくなってきた。さびしい限りだ。
 がんばれ、古書屋。

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