平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

車内カラオケ劇場  2019/01/20


【気分転換のために】

ある日の夕方過ぎのこと、S市に住んでいる友人Yさんは、自宅に帰るために最寄りのJR駅前からいつもの路線バスに乗った。車窓は長いこと茶畑が続く田舎道である。自分の降りるバス停のいくつか前に最後の客が降りると、乗客は自分ひとりになった。

すると何を勘違いしたのか、運転手が車内の明かりをすべて消すと、突然大声で歌い出した。この運転手にのど自慢大会出演の予定が入っていたかは知る由もないが、今ここで受け入れなければならいのは公共のバスが突然カラオケハウスと化したことだ。車内カラオケ劇場、はじまり〜はじまり〜。まさかこれってサービスじゃないですよね。何曲歌ったのかは、訊き忘れたのか覚えていない。
根っからまじめなYさんは、心臓がバクバク、しばらくただ息を殺して運転手のカラオケに付き合うしかなかったという。

そうして、自分が降りるバス停が来ると勇気をふりしぼって昇降ボタンを押した。

ピーンポーン!!

表情こそ見えなかったが運転手の背中がビクッとなったように見えた(きっと)。
なんだか妙な話だが、自分の方がキンチョーの極限に達したYさんは、降り際に運転手の顔を覗き込むことさえできなかったという。
今思えばこの運転手、もしかすると路線バスの運転手ではなく、観光バスのガイド志望だったのかもしれない。


〽 唄はちゃっきりぶし 男は次郎長
  ちゃっきり ちゃっきり ちゃっきりよ〜(作詞:北原白秋)



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