MOA美術館 風景を切り取る空間 2018/01/17
以前に足を運んだのはいったいいつのことだったろう。記憶が遠い。それほど、久しぶりのMOA美術館(熱海)への訪問だった。
現代美術作家・杉本博司氏と建築家・榊田倫之氏によって主宰される「新素材研究所」が2017年2月に展示スペース等のリニューアルを手がけたと聞いていたのでずっと気になっていた。
訪れてまず驚いたのは、漆芸家で人間国宝の室瀬和美氏による漆塗のメインエントラスドアで、高さ4メートルの巨大な仕事だ。意匠はまるで片身替の着物の風情である。
そうして展示室に入って再び驚いたのは、展示ケースにはめられたガラスの存在だ。正面に立っても、見る者の映り込みがまったく気にならない。というか、ガラスの存在すら忘れてしまう(何度か手を伸ばしてガラスの存在を確認したくなった)。これを可能にしているのが、展示室の左右を仕切るかのように立っている巨大な黒い壁の存在だ。高さは4メート程度か?幅20メートルはありそうだ。係員が、江戸黒と呼ばれる深い漆喰であることを説明している。仕事をした左官はいったいだれだろう。
企画展『暮らしの中の伝統工芸』もすばらしかったが、屋久杉、行者杉、黒漆喰という日本の伝統素材・技術に新たな可能性を与えた館のリニューアルがとにかくすばらしかった。
このことは、近々、公の原稿としてアップすることになるだろう。
(↓)立つ位置によって、空と海のボリュームが変わって見える。風景を切り取る屋外空間だ。
(↓)まるで屏風絵。熱海の風景すら、作品にしてしまった。
置かれている椅子の脚になっているガラスは、同じく杉本博司が手がけた IZU PHOTO MUSEUM にも設置されている。これは、ただのガラスではなくカメラのレンズにもなるような純度の高さを誇る。
(↓)杉本の作品の前に立つと、自らが作品に映り込み、熱海の海と一体になる。
(↓)写真(以下、6枚目)にある黒い壁が、江戸黒と呼ばれる深い漆喰で仕上げられている。この壁が、展示ケースの映り込みを解消している。その機能ばかりでなく、じっくりと見ると、巨大な「唯の壁」そのものが実に美しい。
この場にアップした内容は、その後ペンを入れる場合があります。
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