この春、「森の展示室」を音連れて 2017/06/05
この春、京都は京丹波町にある「わち山野草の森」に足を運んだ。静岡から京都まで新幹線で移動し、京都駅から嵯峨線に乗り換えて園部へ。さらに山陰本線で最寄りの駅・和知まで移動、そのあとは、駅と会場を往復するワゴン車に運んでもらった。朝早く静岡を出たが、会場に着いたのは、既に昼前であった。時刻は割合正確な腹時計が知らせた。
年間を通じて約900種類の山野草が根を張るこの森を訪れたのは、知人で建築家の大橋史人さんが参加する「森の展示室」(主催:京丹波森とアート実行委員会)なる芸術祭があるときいたからだ。思わず芸術祭と書いたが、その空間はアートフェスという言葉もしっくりこないし、従来の芸術祭とも明らかに違っていた。やはり「森の展示室」なのである。この言葉の肌触りや響きが静謐でいちばんしっくりとくる。一見すると一色刷りのフライヤーからもその雰囲気が漂ってくる(デザイナーは島谷美紗子さんという方らしい)。淡々としていて、穏やかで、日常の延長にある森の存在が展示を見る前から感じられた。
先にも書いたように、今回は建築家・大橋さんの展示が主たる目的だった。その大橋さんは、パート・ド・ヴェールという手法でガラス作品を制作する熊谷峻さんとコラボし、12柱(13柱)の「神様」のための屋根を張った。光を計算し、ガラスの塊を配したインスタレーション「クマガイソウ」だ。クマガイさんの神様をクマガイソウという植物の咲くエリアにつくってみせたのだ。ちなみにアイヌの文化ではクマはイコール神なので、クマガイソウは「カミガイソウ(神がいそう)な空間」、とも解釈できる。果たしてこれは偶然の仕業か。
このようなインスタレーションを目の前にすると、われわれはどうしても目に見えるものにのみ気を奪われる。だが、神の来臨こそ、聴覚をはじめ全身で感じ取るべきだろう。森という世界、そのなかで起きている小さな空気の流れの変化、本来なら「神様の家」というカタチからもいったん離れてマザーネーチャーという森を「感じる」べきかもしれない。神様の家は、そのための装置である。
ところで、後に大橋さんご自身による本展の振り返りを聴く会があったが、この形にいきつまでに、何度も何度も構想が変わり、現地に着いてからも天候の関係で設計や展示のご苦労があったことを知った。たしかにアートとのコラボに慣れている大橋さんだが、いざ、神様の家ともなるとそんなに簡単ではなかったろう。なぜなら、いくら意識しないといっても日本には、社や神棚、磐という神が鎮座する確固たる空間が神話の時代から現代に至るまで歴史のなかに連綿と横たわっているからだ。そこからの型破りである。並大抵の精神力と発想では作品の発表はできない。
その後、神様の家は、会期が終了し移動のためにいったん畳み込まれた。神様の一部は、大橋さんの事務所の窓辺に再び来臨したとも聴く。神様の家は、何か別のカタチで、再びこの世に姿を現して欲しいものだ。そう切に願う。
●森の展示室 公式サイト
https://www.morinotenjishitsu.com
●Facebook page
https://www.facebook.com/morinotenjishitsu/
以下、時間の許す限り会場を回ったがすべては見ることが叶わなかった。キャプションはつけないが、取り急ぎ、カメラに収めた写真のみアップしておく。
帰りの電車を待つホームで30代前半の女性に声を掛けられた。京都へ向かうホームはこちらでいいのか、という内容だった(のちに訊けば、その女性は京都在住だった)。そのあと、乗り込んだ電車の中でもその女性は話しかけてきた。四人掛けシートの窓側に座っていたわたしに、「この子を陽に当てたいので、そちら側に座ってもいいですか」と言ってわたしの正面に座り、ビニール袋に入れた山野草を電車の窓辺に置いた。その際、確かに植物の名前は訊いたことは記憶しているが緊張のあまりその名を覚えていない。
それから女性の植物との暮らしぶり、自然農法についての「電車内講義」をたっぷり2時間弱受けることとなった(笑 ・金銭や思想に絡む怪しい勧誘ではなかったのが幸いだった)。また、その女性は、同じ「わち山野草の森」の行っていたようで、会場で買い求めたという蒸しパンを半分に割って、「ひとりだと多いのでいっしょに食べましょう」と言って大きな方をわたしに差し出してくれたが、慌てて小さな方を受け取った(糖質制限中だし、しかも大きな方か小さな方かの2者選択だし)。そうして、出合ったばかりのふたりは満員電車のなかで蒸しパンを頬張ることとなったのである(汗)(汗)(汗)
最後は、新幹線の改札まで見送られ、互いに名前も名乗らないまま、さよならした。
もしもわたしが女性なら、どんなに電車の中で暇していても、わたしのような男性にはきっと話しかけないように思う。旅は、誠にdangerである。
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