月の歌人・明恵上人
腰痛のおかげでそろりそろりと歩いていると、色々なものが見えてくる。
仲秋の名月もまたしかりであった。
あかあかやあかあかあかやあかあかや
あかやあかあかあかあかや月
西行は桜の歌人だが、それを対にして、明恵を月の歌人と称する。
山の端にわれも入りなむ月も入れ 夜な夜なごとにまた友とせむ
歌を詠むとも実に歌と思はず、の趣だ。
孤高の明恵は月を友とした。
月をお堂に引き込みながら修行に打ち込んだ。
わたしは先ほどから、ひとりぽつねんと、埋め草を綴りながら、
明恵と月とを重ね、筆を持ったり置いたりしている。
風が強い。
明恵の修行した高山寺では、鳥獣戯画が今夜の風でうごめきだしてはいまいか。