平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

ふじのくに地球環境史ミュージアム オープン  2016/03/28

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ふじのくに地球環境史ミュージアムのロゴの設計は、どうやら氏デザインさんの仕事のようだ。このロゴもコンセプチュアルで、それでいてやさしく、ひじょうにいいデザインだ。静岡大学も2014年度におこなった美術展のデザインワークをお願いした。

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2016年3月26日(土)午前10時、「ふじのくに地球環境史ミュージアム Museum of Natural and Environmental History,Shizuoka」(静岡市駿河区大谷5762、館長:安田喜憲=地理学、環境考古学)がオープンした。静岡にやっと県立の博物館がオープンした。1986年、県の総合計画に「県立博物館構想」のキーワードが登場して久しい。県民の思い、関係者の思いがついに結実した。元静岡大学のI先生も、きっとこの完成を待ちわびておられたであろう。

◆ 公式サイト
https://www.fujimu100.jp

日本ではあまり聞いたことのない「地球環境史」のミュージアムは、有度山の西麓に位置する。コンセプトは、「百年後の静岡が豊かであるために」、ロゴマークは、きっと、コンセプトの「100」と、もしかすると循環とか無限大を表しているのかもしれない。MUSEUMの「M」にも見える。はたまた未来を見据える双眼鏡の見立てか。

収集品は約30万点、内約3000点を常設展示し不定期で入れ替えるという。常設展示室10、企画展示室2、講座室5、講堂1、他にキッズルーム、図鑑カフェ、ユニークなところでは場の記憶となる「学校記念室」を備える(大切なことだ)。
空の色、水の色、地球をイメージしたのだろう、ブルーが基調色である。建築はRC3階建て、といっても、旧静岡南高校のリノベーションである。その記憶が建築や展示の随所に生かされている。展示台に学校の椅子を二つ重ねて使うとか、展示解説の黒板をうまく使っているなど、たいへんユニークである。

展示室1「地球環境史との出会い」、展示室2「ふじのくにのすがた」、展示室3「ふじのくにの海」、展示室4「ふじのくにの大地」、展示室5「ふじのくにの環境史」、展示室6「ふじのくにの成り立ち」、展示室7「ふじのくにの生物多様性」、展示室8「生命のかたち」、展示室9「ふじのくにと地球」、展示室10「ふじのくにと未来」とある。

なるほど、と思ったのは、展示室から展示室へ移る空間の使い方だ。ここでは、単にポスターやパネルを貼って空間を埋める、ということはしていない。都合数百メートルはあるだろう廊下をわたっていくと、随所(数えたら17箇所)に約30センチ×20センチ程度の展示物が掛けてあり、地球誕生46億年を1年間の時間軸に読み直した日付が刻まれる。来館者は移動しながら身体感覚で、地球誕生、生命誕生のスケールを味わえるのだ。

キャプションが通常よりもやや小さいようにおもえるが、これはおそらく戦略的だろう。なぜならば、ミュージアムでは解説を読む前に「自らが考える」ことを重視しなくてはならいからだ。従前通りの「教えてくれるミュージアム」ではなく、「考えるためのミュージアム」こそが、これからの(本来の)あり方だ。ただ答えを知りたければ、自宅でネットでも検索していた方が何百倍も「効率的」だ。何よりもいいのが、この工夫によってスタッフとの対話が増える。知ること、気づくことの半分は、対話から得られるのである。このあたりは、(事情は違うが)日本科学未来館と同じ仕掛けがある。
付け加えるなら、各展示室のテーマのフレーズやキャプションが「動的」で生き生きとしている。これも学者や学芸員の仕事なら、ここには相当すごい人物がいることになる。

開館初日ということもあり(オープニングセレモニーの静岡県舞台芸術センター SPACの『かぐや姫、霊峰に帰る』も観たかったので)、細か観察ができなかったが(肝心の図鑑カフェにも行けていない)、何度か通うことで、また気づいたことはレポートしたい。

そうそう、今後はミュージアムショップの充実を願う。それから周辺の山や海という環境を使って、多彩なワークショップもできそうだ。いくつかのアイデアもあるが、きりがないので今回はこのへんで。


・ふじのくに地球環境史ミュージアム 管理運営事業費 2億3550万円(「平成28年度 当初予算案 参考資料」https://www.pref.shizuoka.jp/soumu/so-110/documents/28sankousiryou.pdf p45)
 (同管理運営事業費 2億8900万円 「新年度一般会計予算案」『毎日新聞』2016年2月16日朝刊 http://mainichi.jp/articles/20160216/ddl/k22/010/083000c 2016.3.29アクセス)



◆開館前に訪れたときの記事 (2014年12月13日)
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/2058.html


◆ロゴデザイン等を設計された氏デザインの公式サイト
http://ujidesign.com
静岡でいえば、静岡市美術館のロゴや数々の展覧会のチラシ、静岡市文化振興財団の「キニナル スキニナル プロジェクト」の一連も氏デザインの仕事だ。



( ↓ )展示室1「地球環境史との出会い」

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( ↓ )展示室2「ふじのくにのすがた」
驚異と惠みを白と黒で表現している。

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( ↑ )学校の椅子も、この通り。



( ↓ )展示室3「ふじのくにの海」
床もテーマカラーにペイントされている。まるで深海にいるようだ。それにしても、随所にあるキャプションがなかなかいい。へたくそなコピーライターの仕事よりもセンスがいい。3776メートルの富士山と水深約2400メートルの駿河湾、長さ約5000メートルの海岸線がつくる生物多様性の展示である。

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( ↓ )展示室4「ふじのくにの大地」

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( ↓ )展示室5「ふじのくにの環境史」
自然環境と人間の生活のバランスをシーソーをつかって表現する。どちらにどの程度、ウエイトがかかっているのか、直感的に解る仕組みになっている。果たして、今のわれわれの暮らしは!と投げ掛けて来る。

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( ↓ )都合200メートルの廊下には、随所(数えたら17箇所)に順路を兼ねた地球暦が設置されている。地球誕生46億年の歴史を1年間の時間軸に読み直した日付が刻まれる。

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( ↓ )展示室6「ふじのくにの成り立ち」
部屋の中心に置かれた大テーブルは、静岡県の地形になっており、鉱物・化石などはその場に対応して設置されている。展示物の一部は実際に触ることができる。

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( ↑ )学習机も再び活躍の場を与えられた。




( ↓ )展示室7「ふじのくにの生物多様性」

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( ↓ )展示室8「生命のかたち」
聴講の様子を模したレイアウト。進化の順に座る生徒?たち。

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( ↓ )展示室9「ふじのくにと地球」

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( ↓ )展示室10「ふじのくにと未来」

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他にも、企画展示室等、元教室を使っているだけに部屋の確保は容易かもしれない。ただし、こういった場合、いたずらに意味のない空間をつくって機能しない。その点、よく考え抜かれた空間構成だ。

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(↓)「図鑑カフェ」 ネーミングがいい。駿河湾が臨める。

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(↓)施設は有度山を背負っている。また20分も歩けば、駿河湾の波打ち際までいける。生きた教材を使ったワークショップを行うには最高の場所ともいえる。

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( ↓ )ボランティアのコスチューム。この方はオープンまでに2回のlectureを受けたという。1回は接客、2回目は展示等の詳細について。来場者と対話を重ねながら自らも学習を重ねるのかもしれない。きっと、このてのミュージアムでは、専門的な質問も多いだろう。

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( ↓ )シンボルとなる楠の生える中庭。館の周りは自然がいっぱい。この空間こそ、ぜひビオトープにして欲しい。

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( ↓ )場所の記憶をとどめる展示。ふじのくに地球環境史ミュージアムは、旧静岡南高校の校舎をリノベーションして使用している。

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( ↓ )オープンチラシ

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( ↓ )館内パンフレット

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( ↓ )先着500名に配布された記念品。オリジナルのバッグに入れられたロゴの入ったつばめノートと鉛筆。

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( ↓ )静岡県舞台芸術センター(SPAC)による『かぐや姫、霊峰に帰る』の記念上演。SPAC俳優の貴島豪さん、関根淳子さん、お世話になっております。

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(↓) 『静岡のチョウ 世界のチョウ展』 
   会期:2016年12月10日〜2017年3月26日

世界に5頭の標本だけしか知られていなかった “幻の大蝶”ブータンシボリアゲハが2011年、78年ぶりに再発見された。
展示もすばらしかったが、図録のデザインや充実ぶりにはうなった。

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