「折々のことば」から 2015/10/06
◆「折々のことば」182(『朝日新聞』2015.10.4朝刊)で、哲学者の鷲田清一さんが、森崎和江さんの言葉を採り上げていた。
「いい顔とは、生にはりついている死とのつきあい方が素直にすけてみえる顔のことです」
鷲田さんはこの言葉と向き合ってこう指摘する。
「死は、一個のいのちの消失に尽きるものではない。土が生き物の死体を腐らせることで植物を育むように、人の死も『大きな自然の摂理にくるまれたもの』としてあるはず。その死が『いのちの素顔』から遠ざかるばかりだと、作家は憂う。」
ワイドショー・ネタにならないよう、自らにも問いかけながら注意深く述べたいが、乳房を切除したタレントの術後会見のコメントとこの記事が重なった。
これだけ日々多くの人が亡くなっているのに、その死は遠く、日常生活のなかで直接死に触れることは極めて少ない。せいぜい、親族か知人の亡骸であろう。
そのことと、「現代という病」は、まるで無関係とは言えないだろう。
ついでに書いておくと、最近の「折々のことば」では、茨木のり子の「だいたいお母さんてものはさ しいん としたところがなくちゃいけないんだ」(181,2015.10.3)や九鬼周造の「私が生れたよりももっと遠いところへ。そこではまだ可能性が可能のままであったころへ。」(183,2015.10.5)を採り上げた小さな解説がよかった。
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◆「(ノーベル医学生理学賞の)大村智さん、故郷・山梨に美術館丸ごと寄贈 巨額特許料にも『食べるだけで十分』と寄付」と題した以下の記事がアップされた(ヤフーニュース,2015.10.5 20時25分配信)。目頭が熱くなる。わたしの知人のMさんもまさにこういう人物で、心から尊敬している。
(以下、記事の抜粋)
北里研究所名誉理事長でありながら女子美術大理事長も務める大村さんは、絵画や陶器、彫刻など美術品の著名な収集家として知られています。特許料の大半を購入に充てた約3500点にのぼる作品群は「大村コレクション」とも呼ばれています。
薬の開発関連の特許料は北里研究所に入った分だけで250億円。しかし、本人は「食べるだけで十分」と、研究所の経営再建や病院建設にも巨費を投じました。(中略)
そのうち1500以上の作品が2007年、これらを収蔵する新築の美術館ごと、生まれ故郷の山梨県韮崎市に寄贈されました。
美術館は大村さんの生家近くにあり、鉄筋コンクリート造り2階建て。喫茶室も兼ねた部屋を含め、展示室は3室あります。敷地面積は2627平方メートル、延べ床面積は478平方メートル。同じ敷地には日帰り温泉施設もあります。
展示・所蔵品の購入費だけで総額5億円にのぼり、美術館の建設費も2億円以上。大村さんは開館当時、「この美術館は、若い人たちへの投資でもある」「美術品は人類の共有財産。美術品を鑑賞する喜びを皆さんと分かち合いたい」と説明。地元を選んだ理由は、「人として大事なことは恩返しすること」と語っていました。
・大村智さん語録
「私自身がものを作ったり、難しいことをしたわけではない。全部微生物の仕事を利用したもの。それなのにこんな賞をいただいていいのかな」
・「日本は微生物をうまく利用してきた歴史がある。今日の受賞は、先輩たちが築いてくれた学問分野で仕事ができたから」(いずれも『朝日新聞』2015.20.6朝刊,39面)
・アニメーション『鉄腕アトム』を見ながら
「博士になってもいいですか」(大村さんの母親の証言。3,4回は言ったのではないか)
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