平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

驚きの『いっとう小さな私美術館コレクション展』  2013/05/06

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大型連休は本の片付け、原稿書きで終わった。ただ一度だけ出かけたのが千代田画廊(静岡市葵区)で行われていた『いっとう小さな私美術館コレクション展』だ。展示は、石彫家の杉村孝が評論家・石子順造との交流を通して集めた作品群である。
そもそも「いっとう小さな私美術館」とは、杉村が、10年程前まで自身のアトリエのある静岡県藤枝市にあったお茶工場なのかみかん工場なのかを改築して、一般公開していた、いっとう(いちばん)小さな私設の美術館のことである(毎週、金土日午前10時から午後4時開館、冬期12,1,2月は休館 現在は閉館)。
 
今回拝見した約40点の作品は、赤瀬川原平作品(『大日本零円札』)他数点を除くと、約30点がほぼ初見であった。なかでも、小山田二郎5作品6点、鈴木慶則5作品7点には、固唾を飲んだ。果たしてここに展示されている作品は、それぞれの作家の図録に掲載されているのだろうか。それとも、ここで見た者だけが知る「発見」なのか。

小山田二郎を我が眼で観るのは、これがはじめだ。これまでも何度かチャンスはあっもののタイミングを逃して、手垢でボロボロになった図録に甘んじていた。念じておけば意外なところで出会えるものである。
小山田についてはいくつかの書き物に、幼い頃、不運にもインクを誤飲して顔面が変形したとか、スタージ・ウェバー症候群なる病で顔が変形したとも記載があって、わたしには詳細はわからないが、いずれにしても、その「負」が生涯作品制作に向かわせる原動力になっていたという。
きっとアトリエだろう、丸椅子の上に両膝を抱えて座り込み、その抱え込んだ右手の指に挟み込まれた煙草からわずかな煙があがり、そうしてこちらをじっと見ている小山田のモノクロ・ポートレートが以前からずっとわたしの目に焼き付いて離れない。目をそらすことができなくなってしまうと言った方が正直な気持ちだ。ほんのわずかに斜に構えたその顔には社会に対する猜疑心が滲み出ているように見える。が、一方で、ある種の自信に満ちあふれている。

今回展示されていた油絵と水彩の合計5作品6点には(いずれもタイトルの表示がない)、濃厚な死のニオイを感じずにはいられない。特に水彩のなかに立っている人物(上の写真)はいったい何者であろうか。小山田自身といってしまえば簡単だろうが、そんな単純なことなのか。女とも男とも判断のつかないその存在(果たして悪魔か人間か)からは、憎悪や猜疑心を薪にしてくべたような紅蓮の炎が立ち上り、焼き尽くされてしまいそうになる。だが、それでいて思いの外静かなのである。画面から音が聞こえてこない。静寂が画面を覆っている。支配している。その静かさが逆に恐怖を呼び覚ます。ちょっと油断をしていると絵の中に引きずり込まれそうになる。そう思うと一瞬たりとも眼をそらすことができなくなるのである。


また前述した鈴木慶則とその作品については、この先ここ「脳内探訪」にも綴ることがあるだろう。一言だけ書いておくと、鈴木は1960年代 石子順造を核とした静岡を拠点に活動した前衛美術家集団「グループ幻触」(1965年結成)の結成人物のひとりである。そこには、鈴木他、前田守一、丹羽勝次、飯田昭二、小池一誠らがいた。

今度年(2014年2月)からの静岡県立美術館の展覧会も楽しみである。思いがけず出会えた衝撃的な「小さな」展覧会であった。なお、千代田画廊のオーナー様に対しては、あれやこれやと質問攻めの格好となってしまったが、大変に丁寧に応対していただいた。感謝したい。

▽静岡県立美術館公式サイト
2013年度スケジュール
http://www.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/japanese/exhibition/kikaku/2013/

研究ノート 前田守一 《遠近のものさし》に至る人的交流とその作品への影響
http://www.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/japanese/amaryllis/no_107/05.php

http://www.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/_archive/tearoom/amaryllis81.html

http://www.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/japanese/collection/symphony/shirabe/index_pt6.php




・千代田画廊にて行われた展覧会出品作家一覧
池田竜雄、畦地梅太郎、多賀新、谷川晃一、林静一、高松次郎、久里洋二、堀川紀夫、秋野不矩、井上洋介、小川プロ、小川芋銭、鈴木慶則、杉山邦彦、市
川正三、赤瀬川原平、松村外次郎、小山田二郎


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いっとう小さな私美術館蔵作家一覧(※以下、会場に展示されていた、いっとう小さな私美術館発行の通信より転記)
小山田二郎、中西夏之、高松次郎、赤瀬川原平、秋野不矩、畦地梅太郎、池田竜雄、井上洋介、岡本一平、小川芋銭、鵜飼勇冨喜、北川薫、曾宮一念、多賀新、高柳藤一、谷川晃一、林静一、松村淳、松村外二郎、三木富雄

・県内作家
青木鐵夫、石山潤、市川正三、伊藤育子、伊東槃特、海野光弘、江崎武男、河西賢太郎、山支部琢美、小山勇、笹本忠志、沢田英治、柴田俊、杉本侃子、鈴木貴子、田中昌保、時田也寸子、疋野晶子、松井正之、柳沢紀子、大畑達郎、青木洋子、今村富士恵、遠藤真知子、坂本雅子、高塚増雄、夏池篤、平野旭、細谷泰滋



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