平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

まるで遅れた初詣   2013/01/13

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かなり遅めの初詣。博物館へ初詣。その足は、まずはトーハク(東京国立博物館)へ。
王羲之も円空も観たいが、今回の目的は、長谷川等伯の「松林図屏風」(国宝)。トーハクで等伯。併せて光琳の「風神雷神図屏風」。
http://www.tnm.jp

わたしは「松林図屛風」の前に立つのはこれで二度目だが、数分もこの六曲一隻の屛風の前に立っていると群がる観覧者の気配やひそひそ声もすぐに気にならなくなり、霧の立ちこめる松林の中に独り佇んでいるような錯覚に陥る。自分の背後にまで松林が広がっているのではないかと、振り向きたくなる。
屛風に仕立てられているこの絵を、四方の襖に貼った部屋に入ったらどんな風になるのだろう。その方が、絵が生きてこないだろうか。そんなことをぼんやりと考える。
遠くに見える富士の山(左隻)は、果たして冬なのだろうか。刻限は早朝だろうか。肌を刺す冷たい空気が静かに画面全体を覆っている。空気の匂いすらしてくるようだ。

ときどき両者は(ライバルとしても)比較されるようだが、等伯(1539 -1610)の松は、同時代を生きた幕府のお抱え絵師狩野永徳(1543- 1590)の松とは対局にある。永徳の松が能の舞台に描かれるイコンのような存在なら、等伯の筆は、荒々しく、なかには枯れ立ちしたようにみえるリアルな松だ。擦れて勢いのある松は、どのような筆で描かれているのだろう。どんな勢いで描かれていったのだろう。

蛇足だが、両隻にある等伯の落款、これが実にいい。チャンスがあったら「長谷川」の「川」の書体に注目してみるといい。緊張がほぐれてくるともいえる。

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(注:会場ではフラッシュ撮影は禁止)


( ↓ )尾形光琳筆『風神雷神図屛風』。チャンスがあれば、俵屋宗達、酒井抱一の『風神雷神図屛風』と比較してみるといい。

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今回の初詣?の目的その2。
国立西洋美術館のロダンのコレクション(松方コレクションがベース=松方幸次郎)は、つとに知られた存在だが、これだけ一堂に展示されたのは初めてであろう。加えて本企画展『手の痕跡 Traces of Hands』ではロダンのもとで働いていた職人ブールデルの作品群も比較できるように並べられていて、ロダンとその影響、そうして師をなんとか離れ、超えていこうともがき苦しむ姿、守破離が作品を通じて鑑賞できる。

http://www.nmwa.go.jp/jp/index.html

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今回改めて印象に残ったのは、当初は『地獄の門』に取り付ける予定だった作品『接吻 The Kiss』だ。そこにはフランチェスカと彼女の夫の弟パオロとの愛の物語が描かれている。読書をしている際に愛を確かめあったというその二人の関係を描いたブロンズは、高さわずか六十数センチ。だが全体が安定した三角形のシルエット持ち、二人の物語に重厚感を与えている。

他にも書いておきたい作品は多いが、タイムアウト。ヴィクトル・ユゴーやオクターヴ・ミルボーらが蓄えている髭の柔らかさには、思わずわが手が伸びていきそうになってハッとしたことを書き添えておく。おっとっとっ。


わたしの住む静岡には、静岡県立美術館があり、常設展示のあるロダン館がある(「地獄の門」をはじめブロンズ作品32点、他素描など)。
http://www.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/japanese/rodin/index.php
そのコレクションは、国立西洋美術館に次いで日本で二番目のコレクション数と質を誇る。
只今、建物の改修工事中で観覧はできず、この2013年春のリニューアルオープンを待つ状況だ。せっかくのそのタイミングにあわせて、ロダンの手の痕を観察しながら、ゲーテやカレーの市民を語る、もっといえばキリスト教の世界観を俯瞰する、そんなことが自ら「言語化」できないか。しかも若い人たちと一緒に。そんなことを企んでいる。

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( ↑ )ロダンの描くカレーの英雄たちは、苦悶や不安な表情を浮かべることで、成功している。

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( ↑ )『地獄の門』を囲むアダム。

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( ↑ )エヴァ

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(※このページに掲載したロダンの写真はすべて国立西洋美術館コレクションから)


○「脳内探訪」内の関係記事 2012/8/11
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1793.html

○2010/11/15
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1394.html


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※今日現在、twitter上でつぶやかれている平野雅彦さんは、私平野雅彦ではありません。


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