『傷を愛せるか』 2012/12/30
足早の猫背男。靴の中で爪先にぐっと力を入れてみる。かじかんだ爪先の感覚がどうにも心許なくあやしい。鞄に突っ込んだのは旧版の『春琴抄』。頂き物の蜂蜜。目薬と処方された胃腸薬。今年ももうあと数日だ。
いつもとは違う棚に迷い込んだのは、某大型書店。宮地尚子という精神科医の『傷を愛せるか 〈痛みとともに〉』(大月書店)という随筆を何ものかに澪引かれるようにして手に取る。
言葉を一つひとつ目の前に置いていくかのように語りかけてくる。ヴァルネラビリティvulneravility、弱さと攻撃誘発性、弱さを抱えたままの強さ。
「味わいたい。ゆっくり味わいたい。そう心が叫ぶ。
一行の文章ににじむ切実な思いや、雑誌のなにげない挿絵が放つ鋭いセンス、小さな写真にひそむ美しさにじっくりとふれ、ひたすら味わいたいと思う。」
そんな切望から生まれおちたのだろう、凜とした言葉の数々が並ぶ。
「傷がそこにあることを認め、受け入れ、傷のまわりをそっとなぞること。」
そういった態度と言葉の手触りこそが、時代を超えて大切であることを教える。
中途、中途に挟み込まれる宮地自らが撮ったモノクロ写真、これがまた実にいい。
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※今日現在、twitter上でつぶやかれている平野雅彦さんは、私平野雅彦ではありません。
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