平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

土に目を付けたチーム本原  2012/09/23

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中学生レベルの知識だが、縄文時代の終わり頃になると、大陸や朝鮮半島からここ花綵列島にも稲作や青銅器の文化が伝わって来た。最初はきっと九州辺りを中心にそれらが伝わり、長い時間をかけて列島を這うようにしながら北上したのだろう。
弥生時代になると、人類は平野に住み始め、狩猟中心の生活から、定住型の稲作文化が誕生する。すなわち集団生活の始まりである。
稲作文化とは、人類が獲得したもっと偉大な発明のひとつであろう。もちろんそこには批判の声もある。農業の「発明」と「発展」によって環境は大きく破壊されたのだという批判である。その証拠に四大文明発祥の地の現状をきちんと見よ。どれもが大なり小なり砂漠化しているではないか、というのがそれらの声だ。

それはさておき、わたしの住む静岡市にも弥生時代後期の「登呂遺跡」(1943年・昭和18年 軍事工場建設に伴い発見される)があり、そこから出土される代表的な土器には「壺」と「台付甕(かめ)」がある。台付甕はその煤の付き方から見て、煮物をしたり水を沸かしたりと、鍋や釜の役割をしたのだという。

ちなみに、弥生時代後期の土器は静岡県でいえば、大井川を挟んで東と西とでは器の形態や構成に大きな差が見られるという。大きな川を挟んで文化の差が出るのは当然のことであろう。そう言った意味では大井川に関わらず、川を挟んで文化の差異があったことは容易に想像がつく。もちろん難所のひとつ山も文化の境を作ったのである。要は地形の問題である。

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さて、話はここからで、この弥生時代の生活を、細切れに体験するのではなく、一連の生活という視点をもって、通しで学ぶことができないかと考えたのが、陶芸家でアーティストの本原玲子さんである。
もちろんわたしもすべてを知っているわけではないが、確かに、これまでの体験型施設では、稲作、土器作り、火おこし、貫頭衣を着てのワークショップ等々は個別に行われて来た。結果、それが一連の「弥生生活」の中に位置づけられることはなかった。

そこで本原さんが目に付けたのが「土」である。土でつながる。そう直感した。きっと、米を作った土で、土器も作ったにちがいない。

本原さんはアトリエに登呂の田土を持ち込み、そこに何も加えずそのままの土を使って当時の埦を焼いてみることにした。現代の陶芸の基本となる1250度という温度では、登呂の田土は変形してしまい土器の形を保てないことを観察。そうして1130度まで下げることで、登呂の田土は、きりりと焼き締まることを実証したのである。

本原さんとその考え方に共鳴したメンバーは、では実際に台付甕で飯を作ってみようと、登呂遺跡で実験を行ったのである。

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わたしもその登呂遺跡にお邪魔した。結論から言えば、大成功であった。台付甕によって実にうまい飯ができた。そうして、いくつもの発見があった。例えば、直接火で煮炊きすることで膨大な煤が出た。だが、なぜか土器の周りは煤で真っ黒になるものの、甕の中にはまったく入る気配がないのだ。きっと縄文から弥生に移行する際に、米や動物の肉などを煮込むうちに、この形状に辿りつたいのではないだろうか。そうして、木を使った調理の道具も誕生・発展していくのである。

もう一つわたしは、この「調理の作業」を通して、多くの言語が誕生したのではないかと考えている。まずは煮炊きの具合・状態を表す言葉である。味の表現がこの段階で生まれたかはわからない。ただし、狩猟から稲作・定住型になり、言語の種類が変わっていったという事実はあるのではないか。ひとつの火を囲んで、会話が増えるというのは、現代人が持っている思い込みかもしれないし、そもそも全員が同じ時刻に食事をとったのかもわたしは知らない。

いずれにしろ、この土に目を付けた「チーム本原」の今後の活動には、目が離せないことは確かである。

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( ↑ ) 本原さんが再現した「台付甕(だいつき・かめ)」。全景。

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( ↑ )台付甕の台の部分。台をつけることで真下から火があたるようになっており、熱効率が良くなる。

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( ↑ )このミッション遂行に燃えるメンバー。


◆登呂遺跡の公式サイト
http://toro-museumshop.jp/shopblog/archives/10496
http://www.shizuoka-toromuseum.jp/

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