『あそび』においで 2012/09/05
今週月曜日から始まった『あそび』展 (9月16日まで開催 11日休館)。
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1801.html
連日お客様がひっきりなしに来てくださって息をつく暇もありません! 会場はまさに数珠つながり・・・と言いたいところですが、正直に言えば、なかなかそうもいきません(苦笑)
でも、なかには会場に二時間も三時間も滞在してくださる方々や、東京からこのためにわざわざ静岡まで足を運んでくださった方もおります。
教育に携わる方でしょうか、わたしの目を真っ直ぐに見て大学と幼児教育の連携における可能性を示唆してくださった年配の方もいます。
そうしてわずか3日間で、もう10組ほどの元『あそび』の編集者や関係者からメッセージを頂きました。
この企画展を知って、何十年かぶりで再会を果たしたという元『あそび』の同僚のみなさんが来てくださり、思わず笑みがこぼれました。
また会場に入るなり、目を真っ赤にしながら突然「わー、わー、わー」と叫び出す方、実は元編集者だったりします。まだ開催3日間の出来事です。
今回、『あそび』の研究を通して、学んだことがたくさんあります。今はまだ書かない方がいいと思うこともあります。
いずれにしても、ここまでやってくれた学生たちに心からお礼を言いたい。現場で実際に動いていると、学生とわたしの間でも取り組みや考え方、経験からくる方法に齟齬が生じる。またわたしが適切な指示が出せないために、学生たちが自ら動かざるをえない。それを見た外部の方々がまた助けてくれるという構造になっています。本当に多くの方々によってこの研究は支えられています。
うれしいことがもう一つあります。この研究プロジェクトを動かしている静岡大学の学生チーム「こんぺいとう」が、来場者から実によく訊かれる質問があります。
「みなさんは静岡大学の教育学部ですか」
学生は答えます。「人文学部です。言語文化学科です」
誤解を恐れずに言えば、この言葉のやりとりは、わたしがここ8年間ずっと目指して来たことのある意味、一つの大きな成果だといっても差し支えありません。絵本や幼児教育のことなら、教育学部が当たり前という一般的な理解をある意味越えたことにもなる。
静岡県立美術館とコラボしたときにも新聞記者に「教育学部ですか」と訊かれました。静岡大学の場合、美術といえば、やはり教育学なのです。でも言語文化を学ぶ上でも美術の知識や美術史は絶対に欠かせないとわたしは考えます。例えば、イコンが読めなければ18世紀以前の西洋の「ことば」は半分しかわからないことになりますから。江戸の文様や庭の意匠もすべてそうです。
「言語文化の学びや方法を使ってことにあたり、いったん言語文化の枠組みを離れて、再び言語文化の可能性を探る」。言い換えるなら、「専門領域の知識や経験、方法を使って、専門外領域の課題にアタリを付け、専門性に特化する」。
わたし流に言えば「型があるから型破り・型がなけばカタなし」ということです。
これまで学生たちは、わたしの担当する授業「情報意匠論」で、全国的な広告賞(日本新聞協会賞)や地元の静岡新聞広告賞のグランプリ、読者が選ぶ広告賞なども受賞してきました。その際にも「広告づくりならやっぱりデザインを学んでいる学生さんたちなんでしょうね」という質問を何度も受けました。
「いえ、言語文化学科の学生たちです。デザインの勉強をしたこともなければ、コピーのスキルなんてものは何も持ち合わせていない学生たちです」と答えてきました。それが事実ですから。
広告づくりで大切なことは、どう言うかなんてスキルよりも、何を誠実に言うかに尽きるんです。それを学生たちが実証してくれた例です。
東日本大震災の体験で、科学絶対の時代だと思わされて来た我々は改めて目を見開かされました。twitterの短い言葉が、詩の言葉が、数々の箴言がどれほど多くの人々を勇気づけ、絶望のフチから救ってくれたことでしょう。このことは、いざというときには、「言語文化」の力が人々を闇から救い出してくれることを実証しました。
何度でも書きますが、革命は文学・言葉から起こる。わたしはそれを強く信じています。
元『あそび』のある編集者はこんな言葉を会場に残してくれました。
「私たちは、とにかく一生懸命でした。一所懸命に創っていました。ただそれだけです。それを今きちんと評価してもらえたようでうれしい。涙がとまらない」。
誠実に、今目の前にあることに取り組むことの大切さを教えてくれた言葉です。
そうしてきょう、わたしはまた次なる仕掛けを思い付いてしまいました。ふふふ。
( ↑ )『あそび』の元社員の皆様が、この企画展のことを知って、何十年かぶりでここ静岡で再会を果たしたという。うれしい。
( ↑ )チームこんぺいとうが会場の最後のゾーンに展示した「(自分たちの考える)絵本の未来」
( ↑ )静岡新聞 朝刊 2012/09/04
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