平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

片眼の猫 〜絵本『タンゲくん』 2007/08/18

tange

 
 ある方のブログに文章を寄せていたら、飼い猫が行方不明になってしまったことを思い出し、急に寂しくなった。

 お〜、どこにいるんだよ〜。我が家の愛猫は、逐電(run away)して早三年になる。まだ訃音は聞こえてきていないので、どこかで生きのびているか、それとも野良の宿命か、貧屢(ひんる)のために野たれ死んでいるのかわからない。まてよ、気がさ者だったから、もしかするとどこかのシマで大将をしているかもしれない。まさか海岸を散歩中に某北にさらわれたわけでもあるまい。
 いつも、この猫のことを思い出すとセットで思い浮かべるのが、文士・内田百閒先生の『ノラや』だ(これはですね、猫好きならずとも絶対に読んでください。文庫で出ています。泣けてきます)。百閒先生は、いてもたってもいられず、迷子の猫の広告まで出した。あぁ、ノラを愛していたんでしょうな〜(平凡社コロナ・ブックス『作家の猫』にも詳しい。ビジュアル本ですが、これも良いです。最近、犬編も出ました)。

 そもそもその猫は、我が家の軒下で命を授かった。三匹産んだ野良猫の母親はある日一匹の子猫だけを残して忽然と消えた。昔から、健康に問題のある子供はその場に置き去りにするという。きっとこの猫もそういった運命だったに違いない。事実彼は片眼だった。菌が入ったのだろう。飼い始めて間もなくすると、左の眼球がどろりと溶けて落ちた。猫が片眼というのは相当なハンディーとなるだろうに。わたしは夜も昼もなく看病を続け、病院へ連れて行き、図書館で関連本を復校し、尿道を外から刺激して排尿・排便をさせた。一時はもうダメかと思ったが奇跡的に生き延びた。運の強い猫である。

 一年もすると、片眼であることがウソのように元気に走り回り、鳥やネズミ、蛇なども捕まえてきた。しかし、所詮、野良の宿命か、ある日を境に彼も忽然と姿を消した。 

 先日、静岡市駿河区にあるPeekabooという絵本屋さんで『タンゲくん』という絵本を見つけた。驚いた!片眼の猫の話だ。手に取ったら、想い出が湧き出してきて泣けてきた。まさかうちの猫がモデル?。
 もうあれから三年、どこでもいいから、元気でいてくれることを望む。襖とわたしの二の腕に残った引っ掻き傷だけが想い出だ。


バックナンバーはここ↓から。「表示件数」を「100件」に選択すると見やすくなります。

現在地:トップページ脳内探訪(ダイアリー)

サイトマップ