せつない気持ち 〜森本千絵さんの仕事 2011/07/18
雑誌『BRUTUS』 特集 せつない気持ち(2010.11.1)を読んでいたら、森本千絵さんの以下のような文章を見つけた。
あ〜、なぜわたしが森本さんのクリエーションに深く共感するのかがとてもよく分かったような気がした。
私は普段から日常的にしょっちゅうせつなくなっているので、今となっては何がせつなくなる基準なのかわからなくなっているくらい(笑)自分が満たされている時、例えば好きな人ができた時でも、その瞬間にはもう、「この人が離れたらどうしよう」とか考えはじめているので。だから、私の中では、「好き=せつない」。相反する考えがずっと同居しているんです。 (中略) それはやっぱり、女は生き物として変わっていっちゃうからなんですね。好きになったものとか人とかによって、本質すらも変わっていく。冷たい生き物なんですよ、女は(笑)。だから、もしも好きな人と5年間離れることになったとしても、私はおそらくその間に変わってしまうはずで、次に彼に会う時は、今の自分ではない。変わってしまった自分が、5年後に再会した彼を健やかな目で見つめて「いい」と思える心があるかどうか、そこが定かじゃないから、せつなくなる。たまに、電車の乗っている時に、2台の電車が並行して走っていて、スピードがシンクロして、自分の乗っている車両の反対の車両の中の様子がくっきりと見える瞬間ってありますよね。そうして、一瞬の後にスッと離れていく・・・・あの情景。自分が動いている以上、悲しいけれどその方向に行かなきゃいけないし、そのことを肯定せざるを得ない。その悲しさが、生きていくエネルギーになるというか。 (中略) 自分が一番好きなのは、夕方暗くなって見えなくなるギリギリの時間、車の尾灯をつけ始める時間帯。うっすらと肉眼で街の様子は見えるけれども、家々は電気をつけ始める頃ですね。30分か1時間くらいしかない、あの光景を見逃さないように車を走らせてしまうくらい、夕日なんかよりもずっと好き。 (中略) 広告のビジュアルイメージを考える時にも、せつなさを意識することは多いです。企画書の文書にも「せつない」という言葉をよく使いますし。(後略)
こういった感覚があの明るい元気の源になっているんだとおもうと余計に感じるものがあります。
友達同士でも、たとえば、「黄昏時って、ほんとうにせつないよね〜」 「満月よりも、やっぱりナイフみたいな三日月だよね〜」 なんて会話をすると、「うん、わかる、わかる」って反応が次の瞬間にかえって来ることって日常的によくあるけれど、芯の部分で本当にわかり合えたのかっていうと実はけっこうむずかしい。この人がいいっていうから、いいっていっておこうってこと、実は会話のなかではいっぱいありますよね。それってけっして悪いことではない。そもそも人生は「誤読」の連続だもの。だからこそ、せつないんですけどね。
【森本千絵プロフィール】
1976年東京生まれ。1999年(株)博報堂入社、2005年博報堂クリエイティブ・ヴォックス所属したのち、2007年goen°(ごえん)を設立。
主な仕事に、Mr.Childrenやゆずのアートワーク、日産「NOTE」、キリンビール「8月のキリン」「小麦」、東京大学文学部「古典を読む」のアートディレクションをはじめ、数々の手触り感のある広告やエディトリアルを手掛ける。
◎森本千絵さんの公式サイト(※音が出ます)
http://www.goen-goen.co.jp/
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