「学」よ目を覚ませ 〜慶応大学名誉教授 矢作恒雄先生の示唆に富む見解 2011/03/06
わたしがなぜ、忙しいときにも「読む」という行為を中断しないかといえば、それはある日、何でもない新聞記事のとなりに衝撃的な文章を見つけるからである。
わたしは、この記事を切り抜き、ここ一ヶ月の間、繰り返し、繰り返し読んできた。それは静岡新聞「時評」2011.2.8の「今なぜサンデル先生なのか?」 慶応大学名誉教授の矢作恒雄先生の文章である。矢作先生はサンデル先生をとっかかりとして、自らの体験からつまびらかになった、実務経験者が教育の現場に出て行くことによる課題を述べられている。わたしがここ数年ずっと違和感を持ち続けてきたことが、この文章によってみごとにあぶり出されている。
この文章は埋もれてしまってはいけない。この場にアップすることをお許し頂きたい。なお、新聞記事の下のブルーのテキストは、記事中、平野が重要だと思った箇所の抜粋である。
実は筆者もかつて20年ほどのビジネス経験を経て、経営大学院の教壇に立つことになった。当初生々しい筆者の体験談に学生たちは目を輝かせ、議論は盛り上がり、教職に転向した満足感を満喫していた。しかし、ある日、一人の学生から「先生は自分の体験を通して何を僕たちに伝えたいのですか」という質問を受け、眼からウロコが落ちた。「学生に役立つ」と勝手に思い込み、自慢話も織り交ぜた体験談を学生に聞かせ、学生の質問に答えることを対話形式の授業と勘違いしていたのだ。多くの事例を体系的に整理する力や構築力の強化、議論を通じて自分の価値観・原理原則を磨きあげる力、その価値観に照らし合わせながら問題を発見し、その解を自ら創り上げる力の育成等々にはつながらない「講演」を繰り返していただけだったのである。あれから二十数年経った今、ようやくすがすがしい気分で学生たちとの対話を終われる回数が増えてきたように感じている。
筆者は実務家が教育の現場に参加することは大賛成である。しかし、それは受け入れる側に、教育に関する毅然とした理念があり、堅牢な方法論により実務教員をサポートするシステムがなければならない。「オムニバス方式」と称し、毎回実務家の面白い「講演」を繰り返し、教員は司会に徹する授業は考える力を強化する教育とは程遠い。
本日、ある集まりでこの文章を配布させてもらった。議論に参加したみんながこの示唆に富む見解をどこまで本当の意味で理解したのかはわからない。またこの「脳内探訪」を読んでくださっている方の興味はもしかするとここにはないのかもしれない。
だが、この文章には大変に重要な指摘があることだけは繰り返し強調しておきたい。
【矢作恒雄(やはぎ・つねお)プロフィール】
1942年生まれ。1965年3月慶応義塾大学工学部管理工学科卒業。同年4月三菱商事入社。1974年6月スタンフォード大学経営大学院卒業(MBA,優秀賞)。1981年10月スタンフォード大学経営大学院博士課程卒業(PhD)。1982年4月慶応義塾大学経営大学院助教授。同年5月RobertTrentJonesII.IntemationalUSA上級顧問。1990年4月慶応義塾大学経営大学院教授。1991年4月財団法人企業経営研究所所長。1995年10月慶応義塾大学経営大学院委員長。1997年5月慶応義塾常任理事兼慶応義塾大学教授。1998年9月慶応義塾ニューヨーク学院理事長。2000年6月スルガ銀行社外取締役。2002年10月財団法人公共政策調査会理事。現在に至る。
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