平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

直して使う   2011/02/02

HIKIDASHI



年齢を重ねたせいか、ここ数年物欲が激減した。何かの折りに、今欲しいものは何ですかと訊ねられると心底困ってしまう。とにかく目に入ったものすべてが欲しいと思っていた時代は確実に通り過ぎた。その代わりに、今は直して使えるものばかりと付き合っている。

腕時計、万年筆、写真機(フィルム用)、自転車、自動車、手帳、机、テーブル、椅子・・・身のまわりにあるものは直して使えるものばかりだ。今や使い捨てが当たり前になった衣類でさえ、肌着を除けば長く袖を通せるものばかりだ。小物を放り込む箱は祖母の箪笥を処分する際にとっておいた引き出しを再利用している。

あの年寄りが残していったのは、ひと棹の本と万年筆、カンカン帽にステッキ、銀のピルケースと入れ歯、そうしてドイツ製の何ちゃらという写真機だけだったなあ。そういわれるような年寄りになりたい。きっと無理だけど。

荷風先生、お慕い申し上げております。

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