平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

遠い日の腐ったハチミツの想い出   2011/01/28

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ずっと昔、それはまだわたしが小学校の一二年生のころのはなし、我が家には一升瓶の中で白くかたまったハチミツがあった。わたしはそれを、毎日こっそりと家人の目を盗んではペロペロとなめていたのだけれど、あるときそれに気づいた祖父が「腐ったハチミツが少しずつなくなっていくけれど、かわいそうにネズミさんは死んでしまうだろうな〜」とぼそりと(聞こえるように)つぶやいたのをきいて、わたしは目の前が真っ暗になった。死んでしまう。恐怖のあまり、わたしは泣き出してしまった。

しかし、しか〜し、エッヘン、少年平野がえらかったのは(最近だれもほめてくれないので自分でほめてみる)、次の日にはちゃんと担任の先生をつかまえて腐ったハチミツで人間は死ぬことがあるかと訊き、納得する答えをもらえなかったためだろう、たぶん図書室みたいなところで昆虫図鑑の類を調べたのだ。そうしてそこに「ハチミツは(常温でも)腐らない」の文字を発見、ほっとしたのを鮮明に覚えている。

それからずっと年齢を重ねたある日、高校生のころだったとおもう、もう一度どういうことかちゃんと調べてみようとおもいたち、青年平野は、今度は市の図書館へと向かった。

ふむふむふむ、なるほど! 糖濃度が80%近くもあるハチミツは、たとえ細菌が混入したとしてもその浸透圧によって、細菌から水分を奪い取り、菌は死滅してしまうという情報を得たのである。言い換えると、ハチミツが細菌の水分を奪い取り、脱水症状を起こさせ死滅させてしまうのである。おぉ、ものすごいハチミツの能力。
念のために書いておくけれど、浸透圧とは、真ん中の膜を通して、濃度が薄い方から濃い方へと液体が移動する現象のことである。

だが、ここで一つの疑問が。
ハチミツにはボツリヌス菌が入っていて、だから幼児には食べさせてはいけないというではないか。えっ、ボツリヌス菌は死なないの。

そこで中年平野は(どんどん歳をとる)再び図書館へ。
ハチミツに混入するのはボツリヌス菌の芽胞(胞子)であって、そこではボツリヌス菌は毒素を生成できないのであると識る。ただし、それが幼児の体に入ったときにハチミツ効果が薄れ、悪さをする場合があるということなのである。

Sさんから頂いた、ニホンミツバチしか生息していない対馬のハチミツをペロペロなめながら、遠い日の記憶、一升瓶に入ってかたまったハチミツを思い出したのであった。


あ〜 あのときに腐ったハチミツで死なずにすんで、本当によかった。


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