茨木のり子の家 2010/12/30
茨木のり子という詩人について、わたしはほとんど何も識らない。ただ
『自分の感受性くらい』(花神社 2005.5.15)という一冊を繰り返し読んできた。なかでも「電車のなかで 狐そっくりの女に遭った」ではじまる『顔』などは、きっとわたしに読まれるために書かれたに違いない、そう思い込むぐらい何度も眼にこすりつけてきた。ただし、それだけ心を打たれながらも、なぜかこの一冊の詩集から一歩もはみ出さなかった。彼女について調べたこともないし、検索すらしたことはない。何も識らないままずっときた。
先日本屋で、写真と詩で編まれた『茨木のり子の家』(平凡社 2010.11.25)という本を偶然手に取った。その本は、濃いピンク色の帯をきりりと締めていた。ページをめくると、はじめて見る茨木のり子の貌が飛び込んできた。フチの太い眼鏡をしていた。静かな瞳だった。
身動きできなくなった。痺れた。ゆっくりとページをめくる。
意外と無造作に並べられた本棚が見えた。
柔らかな鉛筆で書かれた原稿が見えた。
彼女といっしょに汗をかいた鉛筆が見えた。
それらの写真は、わたしが想像していた茨木のり子をひとつも裏切らなかった。
そうして、しばらくは、手元にある詩集『自分の感受性くらい』を大切に、繰り返し読んでいこうと思った。
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