平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

池田学画集1 (羽鳥書店)   2010/12/16

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羽鳥書店が、興味深い美術書を連打している。今次、発兌されたのは『 池田学画集 1 』。

わたしは池田学さんの驚異の作品世界を、この目で見たことが一度もない。雑誌やカタログで紹介されているのを眺めながら、驚きから出るため息を何度もついていた。もちろん、おぶせミュージアムの個展も、東京のどこかのギャラリーで何度か個展をされていたのも知っていた。だが、タイミングが合わなかった。そうして、いつか池田作品をまとめて眺めるチャンスを狙っていた。

池田作品は、そのどれも、ずっと一つを眺めていると、やがて細かな線が動き出して見えてくる。肉眼では判断できないぐらい微妙に動いて見えてくる。それは動いているのか、いないのか判らないぐらいのゆらぎといってもいい。

例えば「興亡史」なる縦横2メートル大の作品には、巨大な廃城と樹木が絡み合う世界が描かれている。城には得体の知れない魔物が棲みつき、廊下ではモーターボートレースの真っ最中であり、あるいは大きな音を立てて滝が落ち、武士の亡霊たちがまだ自分が死を迎えたことも気づかず戦を続けている・・・云々。そもそも城が先にあったのか、それとも、そこに絡みつく巨木が先にあったのかもよく判らない。もしかしたらかつて、巨木が城に寄生して生息していたのかもしれない。確かなのは、樹木が倒れてしまえば、城もいっしょに倒壊してしまうということだ。
とにもかくにも、この一枚の絵を眺めているだけで、高速で想像力が動き出し、ときには混沌としてくる。
そう遠くない将来、わたしは池田さんの描いた世界の前に立ち、その絵の中で迷子になるだろう。おぉ、ラビリンス。


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朝日新聞 2010/12/15

◆羽鳥書店に関する以前の記事
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1413.html


追記 2010/12/19
本日の朝日新聞朝刊 読書欄で甲南大学の田中貴子氏が羽鳥書店発行の『漢文スタイル』を評していた。田中氏も指摘しているが、この本は単に漢文が日本に与えた影響という事柄にとどまらず、広く漢文文化圏における日本という逆射程で捉え直しことに価値がある。


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