平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

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tosyokan

 静岡市図書館協議会会長を務めている。図書館の現在抱えている問題を明確にし、次世代の図書館の理想を語り、そこに一歩でも近づくために、市民と行政がいっしょになって知恵を出し合う場だ。
 図書館は、貸本屋ではない。今や中国や韓国でも大統領が国策として扱い、施策に取り込む。図書館とはそんな施設である。これはひじょうに正しい態度である。例えば、戦争でまちが破壊されたとしよう。まず再建するのは、祈りの場(たとえば教会)と広場と、そうして図書館だ。したがって先般、中越沖地震の際、いち早く図書館に手を入れ、復興させたのは正解である。子どもたちの大喜びの顔といったらなかった。そういった意味で、まだまだ日本では生死の問題と図書館が結びついていない(健康医療情報もしかり)。
 何しろ図書館はその国の歴史や知識を保存するデータベースであり、その国の存在そのものなのだ(アイデンティティについては詳細は避けるがMarvin Minskyに同じ考え)。日本や日本の代表は平和ボケしていて、この辺りのことがまったくわからなくなっている。何をそんな性急にものごとを決めていくのか。九条を変えることでしか国際関係の問題を乗り越えられないのか(石橋湛山を見よ)。散々開発の爪痕を残しながら「美しい国」と叫び、富士山ひとつ世界遺産にできない。そもそも「美しい国」や「愛国心」を支えているものはなんだと考えているのか。
 兵隊を責めていても埒があかないので、いきなり国家元帥の胸ぐらを掴みたい。日本の首相は図書館に行ったことがあるのだろうか。自らものごとを調べるのだろうか。果たして自身でものごとを考えるているのだろうか。史上最大の敗北の記者会見において、何一つ記者の質問にまともに答えていなかったではないか。わたしは、今の首相が、孔子や老子に学んだり、ゲーテやリルケを諳んじたり、徒然草や芭蕉を援用して議論を深めていくといった態度を一度も見たことがない。きっとわたしが見ていないときに、そんな発言をしているのだろう。そう信じたい。

 ところで、わたしの発言や普段書いていることの多くは図書館によって支えられている。わからないこと、自信のないことをきちんと裏付けるためにわたしは図書館の協力を仰ぐ。これは図書館協議会会長の特権ではない。広く市民にひらかれているサービスである。それがレファレンスだ。これらのサービスを支えているのが図書館の中でも司書という職種だ。
 レファレンスの方法は簡単だ(ちなみに答える方は簡単ではない)。図書館の窓口で直接相談するか、最寄りの図書館のサイトを開いてそこから相談すればメールでも返答してもらえる。もちろん基本的に料金は無料だし、菓子折もいらない。なまじ、サイトで検索して怪しい情報を掴まされるよりも、情報の信頼度は限りなくアップする。なによりも、図書館からの回答をよく観察すると、司書がどのような経路を辿って情報にたどり着いていくのか、プロの「手口」を盗むこともできる。
 例えば、以下はある図書館にデカルトの情念についてレファレンスしたものだ。これだけの回答が来るのである。大筋を掴むには十分ではないか。利用しないのはもったいない。

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ご質問ありがとうございました。
インターネットの検索エンジン「Google」で、「"first of all passions"」(フレーズ)と「descartes」(名前)とを検索ボックスにスペースをあけて入力して検索すると、 ピッツバーグ大学のサイトにあるAbel B.Francoさんの論文“DESCARTES' THEORY OF PASSIONS”がPDF形式のファイルでヒットします。
この論文の209頁の下から7行目や214頁の上から2行目に参考となる情報があり、さらに214頁の脚注にデカルトの『情念論』の英訳があります。この英訳によると、『情念論』の2の53に、「I regard wonder as the first of all the passions」という箇所があるということです。
当館にはデカルト『情念論』の英訳本がありませんので、日本語訳のもので確認したところ、『デカルト著作集 3』(白水社 1973 当館請求記号135.1/105 貸出可能資料)の194頁(『情念論』 第二部 53「驚き」)の文中に、「(前略)「驚き」はあらゆる情念のうち最初のものであるように思われる。(花田圭介訳)」とありました。
なお「Claremont graduate university」のサイトに「CGU Descartes Web Project」というページがあり、『情念論』の英文と仏文を公開しています。ここでは、上記の箇所を「me thinks admiration is the first of all the passions」と訳しています。
上記のものは、いずれもお尋ねの「Wonder is first of all passions」とは異なりますが、英訳したものですので若干の差はあるのではないかと思われます。もしお尋ねのものと異なるようでしたらご連絡ください。
以上です。
回答が遅くなりまして申し訳ありませんでした。

<ご紹介したインターネット情報源>
・“DESCARTES' THEORY OF PASSIONS”(PDFファイル)
http://etd.library.pitt.edu/ETD/available/etd-08152006-122317/unrestricted/AbelBFrancoPittDiss2006.pdf

・CGU Descartes Web Project
http://net.cgu.edu/philosophy/descartes/index.html
※“The Passions of the Soul”、PART2とクリックしてから、Article53のページを表示させます。

 

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