平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

そーゆーものは いらないね〜  2007/07/26

kyou

 「蔭踏み」の現場に立ち会った。骨董用語で、ものを見ないで、相手の話から値踏みすることを云う。
 やらずの雨に足を奪われ、旧知の骨董屋に軒を借りているところへ、ひとりの白髪頭が飛び込んできた。挨拶もそこそこ、その六十男が唾を飛ばし始めた。
 何でも、京都のある市で、志野織部の上物を数十万円で手に入れたという。きょうは現物を持っていないが、次回譲ってやってもいいと主人に持ちかける。そのとき、主人は手に持っていた新聞をぽーんと畳に放り投げてこう云った。
 「そりゃ志野織部じゃないな〜、良くて加藤宗四郎だろう。宗四郎なら春岱(しゅんたい)という名があるはずだ。たぶん1800年代の半ばのものだろう。桃山なら片手はするだろう。まぁ、贋作だなっ。そーゆーものはいらないね〜。客人が来たら気取って使ってやったらどうだ?」
 「傘屋の小僧」という言い方がある。骨を折って品物を値切って手に入れたのはよいが、実は贋作だった、というお些末な話を云う。骨折りと傘の骨がかかっている。


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