有度サロン2010 公開講座 第一回 2010/05/09
がんばれ、静岡茶。デスクワークの一日は、少なくとも2リットルは飲んでいます。
◆有度サロン2010(SPAC静岡県舞台芸術センター主催)公開講座 第一回は『社会保障は単なるセーフティーネットなのか 〜超高齢社会における国民生活のあり方を考える』。
モデュレーターは[社]日本歯科医師会会長の大久保満雄、パネラーは、辻哲夫(東京大学高齢社会総合研究機構教授)と大島伸一(国立長寿医療研究センター総長)だ。
戦後、超特急で進んだ日本の医療。その結果、誕生したのが超高齢社会だ。それはある数字が如実に物語る。
高齢化社会(総人口に対して65歳以上の人口が7パーセント以上)から高齢社会(同じく14パーセントに達する社会)に至るまでに要した長さは、フランスが115年、スウェーデンが85年、ドイツはなんと43年、日本は驚くなかれ、たったの24年である(1970年から1994年の間に7パーセントから14パーセントへと推移)。余りにも急速に高齢社会に突入したために、日本は社会保障制度の整備がまったく間に合っていない。もちろん世界中を見渡しても問題解決となる先例は皆無である。そんな現状を受けて、今、医療を中心とした日本型高齢社会の中で何が求められているのか。それをパネラーたちが浮かび上がらせていく。
端的に云えば、大事なのは社会の中における国民の負担(主に消費税)と高齢社会に対する予算配分の問題であるというのが辻の論。そこには新しい医療チームづくり(各医療関係者のネットワーク)が不可欠で、チームが社会(生活)ときちっと結びついてく新体制が必要だという。そのために辻が寝食を忘れて取り組んでいるのが柏市と東大の共同研究だ。
「長寿社会のまちづくりのモデル構築に向けて、
東大・柏市・都市再生機構で研究会を立ち上げました」(平成21年7月9日)
東京大学高齢社会総合研究機構は、千葉県柏市、都市再生機構千葉地域支社と共同し、柏市の豊四季台地域を対象として、長寿社会のまちづくりのモデルを構築するために、「豊四季台地域高齢社会総合研究会」を立ち上げました。
4月に発足した東京大学高齢社会総合研究機構では、Aging in Place(住み慣れた地域で安心して自分らしく老いることができる社会)をキーワードに、きたるべき超高齢社会に対応し、独居になっても安心して長寿を全うできる、生き生きと高齢期の生活ができる、また子育て世代にとっても地域の支えにより安心して暮らせるようなまちづくりを目指して、学内の関係研究者が、ジェロントロジー(老年学)に関する学際研究を行っています。
柏市では、第4期の高齢者いきいきプラン21を定めて、高齢化が急速に進む市内地域への対応をはじめています。
柏市の豊四季台団地は昭和39年に旧日本住宅公団(現都市再生機構(UR))が建設した大規模団地で、建替が始まっており、整備敷地の一部に、特別養護老人ホーム等を誘致することになっています。
本研究会は、このような三者により、地域の住民の方々や関連団体の賛同も得て、豊四季台団地を中心としたこの地域をフィールドに、高齢者が生き生きと、体が弱くなっても地域の支えにより住み慣れたところで暮らし続けられるように、さらにすべての人が安心して暮らせるコミュニティづくりを行い、長寿社会のまちづくりのモデルケースを構築しようとするものです。
在宅医療システムを整備して、訪問看護や訪問介護などで安心できる社会に向けた活動、また生きがいづくりに向けた諸々の活動、などが想定されますが、地域住民が主体的にまちづくりに関与し、三者がその実現にむけて動くような体制を考えております。
東京大学高齢社会総合研究機構は、7月20日(月・祝日)に東大柏キャンパスで、柏市と都市再生機構の協力を得て、添付のような講演会「長寿社会のまちづくり」を行うことを皮切りに、住民、関係団体等との協議会を設立するなど、今後、具体的な取り組みを開始していきます。(マスコミ発表)
一方、長寿社会という言葉は慎重に使うべきだという立場に立つ大島伸一(国立長寿医療研究センター総長)の問いかけは常に根源的だ。
医療とはそもそも何か。医師とは何をする職業か。医師は何を持って自分たちが幸せだと思えるか。医師は、患者の病を治すだけで良いのか。そこを問い続けることでしか、高齢社会における医療の水平は見えてこないのだという。
戦後、日本の医療現場は、医療技術の向上と専門性の特化ということに邁進してきた。だが、高齢社会に於いては、医師は技術と専門性をもって患者の病を治すだけが仕事ではなくなってきている。それは先に挙げた根源的な問題を解決しない限り、高齢社会を乗り切ることはできないという提示へと繋がる。そのための突破口は、医師の志が変わるしかない、と大島は断言する。
では医師がこれら根源的な問いに向かいながら、自らが変わっていくためのモチベーションとはどこから来るのか、という自らが差し出した問いに大島自身が間髪入れずに答えていく。
一、 自分の能力が地域で必要とされること。
一、 その能力が十分に発揮できる環境が整うこと。
一、 (医師に対して)適宜な対価が支払われること。
一、 地域住民に「この医者は我々の財産だ」と思ってもらうこと(そのように医者も住民も互いに努力を怠らず、認め合うこと)
本講座の核心は、そのタイトル通り、「社会保障は単なるセーフティーネットであってはいけない」ということにある。そういった時代はとっくに破綻しているのである。
最後にモデュレーターの大久保が「(医療現場の)専門家に大事なのは、専門性に特化して技術を習得するだけに終わらず、精神の構え(スタイル)を持つことで、社会とどうつながるかが重要だ」と締めた。これは何も医療現場にだけ言えることではない。自らの職業に照らして考えれば、最後に大久保の示唆した意味がリアルに解るだろう。
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