羽鳥書店 羽鳥和芳さんの発言 2010/04/03
ある大学生が、出版業界は本が売れない理由を若者が本を読まなくなったせいにしている!!と憤慨していた。出版業界の弁にも一理あるが、確かに、この学生の発言にも耳を傾けてもいいだろうと思えた。
そんな中、羽鳥書店の羽鳥和芳さんの記事が朝日新聞(2010/04/02 朝刊 静岡版)に掲載された。そう、この学生の発言をある意味後方支援?しているのが、出版業界に長いこと身を置いている羽鳥さんの発言ではないかと(勝手に)読み解いた。
羽鳥書店やそのスタッフについては何度もこの脳内探訪に書いてきた。
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/432.html
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/997.html
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/899.html
羽鳥書店写真マップはこのページの真ん中あたり
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/910.html
それにしても、羽鳥さん、いい顔しているな〜。かっこいい。
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【売れる本はある。やり方次第】
朝日新聞 2010年04月02日朝刊 地方面(静岡)
還暦で起こした出版社、1周年の手応えは? 羽鳥 和芳さん(61)
学術書でヒットを連発した浜松育ちの名物編集者、羽鳥和芳さんが出版不況に臆(おく)せず、還暦で出版社を起こした。「やらまいか精神かな」と笑顔がのぞく。
——創業1周年ですね
退職金を元手に、前の職場の仲間、東大生協書籍部の知人と3人で始め、いまは5人でやっています。昨年7月に長谷部恭男・東大教授の「憲法の境界」など3冊を創業出版し、その後も法律・美術・人文書を4冊出しました。部数は2千〜5千部。新聞の書評欄に取り上げられたこともあり、3冊は重版になりました。収支トントンですが、1年目としてはまずまずです。
——昨年の書籍・雑誌の推定販売額が2兆円を割り、ピーク時の1996年と比べ3割近い落ち込みだとか。出版不況は気になりませんか
仕事を始めた39年前からずっと、好況だったためしはないんですよ。私は法律中心にもともとそんなに売れるわけではない学術書を200冊余り編集しました。一方、大学の教科書としては39刷46万部という異例のベストセラーとなった「知の技法」を手がけたり、東大出版会で初の画集を刊行したりと、おもしろがって好きなことをやってきました。それを続けたいという思いが一番強かったですね。
この業界には「若い人たちは本を読まない」とか、言い訳が多すぎる。売れる本はある。やり方次第です。
——たとえば
「読者に分かりやすく」と著者と一緒に知恵を絞り、「刑法」シリーズ(前田雅英著)ではまだ縦書きの判決文の時代に横書きにして図表も使い、2色刷りにしました。同様につくった「民法」シリーズ(内田貴著)は90万部を売り、いまでは司法試験の定番テキストです。
「知の技法」の読者カードを調べたら主たる読者は中年男性でした。学生が読んでおもしろいものは本好きが読んでもおもしろい。
——今後の予定は?
30点ほど企画を考えています。当面、教育にも研究にも熱心な第一人者による法律関係のいい概説書、入門書を出したいですね。新書や文庫本とは読み応えの違うものを。
——でも売れなければ話にならない
出版点数は多いのに全体の売り上げは落ちている。つまり売れない本をつくっているということです。読者が千人しかいない本もあれば、1万人の本もある。それを見極めるのが編集者の腕です。簡単ではないですけどね。
返本率が平均40%といわれていますが、私のところでは10%。取次店任せにしないで事前に書店の注文を取って配本しています。
——どの商売でもみんな工夫していると
不況時には元気のいい企業として技術力のある町工場がとりあげられることがありますが、出版こそ多品種少量生産の商売です。執筆、編集、装丁、印刷と手作業の集まりなんですよ。著者はもちろんですが、これまで築いた人脈に助けられています。
——アマゾンに続きアップルも電子書籍に参入します
電子書籍は情報を得るためとか、旅行の時とかは便利でしょう。でも紙の本も、コンテンツ、企画がよければ商売になると1年間やってみて確信が深まりました。内容にふさわしい装丁で印刷がきれいで手触りもいい、ものとしての本の魅力も大事にしたいですね。
(小里仁)
◇群馬県生まれ。小学3年生から高校まで浜松市で過ごす。71年に東京大学出版会に入り、09年3月に定年退職。翌月、東京都文京区千駄木5丁目に羽鳥書店を設立。
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